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嘗て、宗教団体「褻」のトップ・石黒望(いしぐろ のぞみ)は、子供達に命じ信者等を殺害する。殺人を犯し生き残った子供は“生存者”と呼ばれ、其の存在は多くの議論を呼んだ。
時が経ち、生存者の夏目わかば(なつめ わかば)は、警察に石黒の遺体が発見されたと聞くが、其の後、何者かに襲われる。共に暮らした仲間と再会するが、彼等も又、被害に遭っていた・・・。
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逸木裕氏の小説「祝祭の子」は、「2002年、山梨の宗教団体で1人の女性・石黒望によって“戦士”として育てられて来た子供5人が、信者33人を殺害した。其れから14年が経ち、“生存者”として社会から迫害されて来た彼等は、驚愕のニュースを知る事になる。『疾うの昔に死んだと思われていた石黒が、顔を全くの別人に整形し、長野県で暮らしていたのだが、先月、自宅で遺体となって発見された。』と言うのだ。そして、彼女が亡くなった事で、“嘗ての子供達”の身の回りで“事件”が続出する。身の危険を感じた彼等は“再会”し、今後の対応を協議するが・・・。」というストーリー。
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「正義とは何か、判るか?」。岡本(おかもと)の声が、低くなった。「正義とは、排除だ。」。「排除だと?」。「そうだ。自分は正しい、相手は間違っている、だから間違った相手を正す―それが正義だ。自分と異なる考えを排除して、自分と同じ価値観に染める―それが正義だ。」。「間違っているものを正して、何が悪い。」。「善悪ではなく、性質の話をしている。正義の本質とは、同質性の追求だ。正義によって染め上げられた社会では、異質なものは生き残ることができない。正義を掲げる集団は、自分たちを同じ色に染めようとする。<お前は本当に正義なのか>と問い、答えられなければ排除されるだろう。すでに内ゲバがはじまっているのは、その証左だ。人は、そんなことでは結びつけない。」。
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「1968年に発生した全国学園闘争」“も”、舞台として描かれている。「此の学園闘争での挫折が、石黒に大きな影響を与えた。」事は確かなのだろうが、其れよりも彼女の身に起こった或る事件の方が、決定的な“人格変容”を来させたのは間違い無い。そういう意味でも、「敢えて1968年に発生した全国学園闘争を、舞台として取り上げる必要性が在ったのかなあ?」という疑問が残る。
読んでいて、気が滅入る作品。残酷なシーンが多く、人という物を信じられなくなるので。最後の5頁で著者は、読者に“救い”を感じさせたかったのだろうが、余りにも意味不明な殺人が続いた結果としては、救いを感じられなかった。
「逸木作品としては、駄作の部類。」と断じて良い。総合評価は星2.5個。