ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「警官の条件」

2012年03月15日 | 書籍関連

シリーズ物の小説のレヴューをする際、悩ましく感じる事が在る。「其の小説単独での評価」にすべきなのか?それとも「シリーズの過去の作品を踏まえた上での評価」にすべきなのか?基本としては「其の小説単独での評価」を心掛けているが、シリーズ物で在る以上、「シリーズの過去の作品を踏まえた上での評価」というのが少なからず介在してしまうのは否めない

 

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内の麻薬取引ルートに、正体不明の勢力が参入している。裏社会の変化に後手廻っ警視庁では、“若きエース安城和也警部も、潜入捜査中の刑事が殺されるという失態の責任を問われていた。

 

折しも三顧の礼以て復職が決まったのは、9年前、悪徳警官汚名を着せられ組織から去った加賀谷仁。復期早々マニュアル化された捜査を嘲笑うかの様に、単独行で成果を上げる嘗て上司に対して和也の焦り募って行くが・・・。

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天王寺駐在所勤務時、列車に撥ねられて死亡した祖父・安城清二。父・安城民雄も同じく天王寺駐在所勤務時、指名手配中の暴力団員が発砲した弾を受け、命を落としてしまう。そして民雄の息子で在る和也も、祖父&父と同じ警察組織で働く事に。三代続けて警察組織で働く事となった安城家の人間を描いた小説「警官の血」(著者:佐々木譲氏)は5年前に刊行され、其の年のミステリー・ベスト10で軒並み高い評価を受けた。自分も同作品を読んだが、良質の「歴史小説」を思わせる深みが在り、総合評価は星4つとした程。上記した梗概昨夏に刊行された小説「警官の条件」に付いてで、同作品は「警官の血」の続編に当たる

 

加賀谷仁警部の素行調査を命じられ、彼の部下として働く事になった和也は、結果として彼を警察組織から排除する事に手を貸してしまう。加賀谷に対して「警察官として在るまじき人間。」という思いが在り、排除に手を貸した事を和也は気にしていないだったのだが・・・。

 

ガチガチにマニュアル化されてしまった事で、多様化した犯罪に対応出来なくなってしまった「組織犯罪対策部」。危機感を覚えた上層部は、9年前に覚醒剤所持の罪で逮捕されるも、結果的に無罪となった加賀谷を警部として呼び戻すという異例の決断をする。嘗て“裏切った上司”が戻って来た事で、若くして組織犯罪対策部第1課第2対策係長となっていた和也は複雑な思いを抱える事に。

 

過酷な潜入捜査で精神を病み、家族に度々暴力を振っていた父・民雄を心底憎んでいた和也。父の死後に過酷な日々が在った事を知り、其れの父に対するマイナスな思いを改めた彼だったが、実は「今でも父に対して複雑な思いを持っていた事。」を思い知らされる。そして父に対する複雑な思いを、或る人物に重ね合わせていた事も。其れが判る最後のシーンには、グッと来る物が在った。

 

「警官の血」が「歴史小説」を感じさせる内容ならば、「警官の条件」は“良い意味で”「警察小説」其の物。「警官の血」の様な壮大さを求めるならば、一寸ガッカリする人も居る事だろう。

 

前作の「警官の血」を未読此の「警官の条件」を読んだとしても、小説としては充分面白いとは思う。だがしかし、「警官の血」を読了した上で読めば、より受ける物は大きい筈。和也の人格形成が、どういう形で成されて来たのか?祖父や父、そして和也が歩んで来た人生を「警官の血」で知る事で、和也の抱える複雑な思いがより理解出来るだろうから。

 

冒頭に書いた話に戻るが、「シリーズの過去の作品を踏まえた上での評価」で言えば、総合評価は星4つとしても良い。しかし、「其の小説単独での評価」となると、総合評価は星3.5個になってしまう。「警官の血」の出来が余りに良過ぎたがの、悩ましいレヴューだった。


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2 コメント

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警官の条件 (梅吉 )
2012-03-15 12:16:03
この小説は読んだことはないのですが。

いまは、警察も自らの不祥事で
懲戒解雇、懲戒免職になる世の中ですから。
こういう小説のようなことは
そうそうないでしょうけども。
でも、事件の内容によっては
あるいは警察関係、警察組織で人望がある人  
あった人ならこの小説のようなことは十分
あり得るでしょうね。
警察も公務員もどこの組織も芸能界も
身内にはなんだかんだ言って甘いのがいまの日本の社会ですからね。
たとえ、犯罪起こそうが無罪なら
あるいは刑期を終えたら社会復帰できますからね。 

警官も刑事もドラマのように正義感の強い人なら
良いのですが。
現実には実際にはそういう人は
あまりいないですよね。
むしろ、それどころかいまの警察は
不祥事続きですからね。
犯人と思われる人間をピストルで撃つ事件も
あったし、公然わいせつをする警官もいるし。
警察庁や警視庁や各都道府県警察は
この小説を読んで警察のあり方を真剣に
考えるべきでしょう。
本当はそれでなくても警察のあり方を
住民と警察が話し合い作っていくべきだと
思っているし
そうしなければならないと、日々考えるのです。国や地方の行政もそうしてるんだから
警察にもそういうのがあって良いはずです。 
 
 
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>梅吉様 (giants-55)
2012-03-15 13:49:20
書き込み有り難う御座いました。

学校を卒業してから民間企業で数年働き、其れから公務員になった者が親戚に2人居ます。共に公務員になって暫くの間は、民間企業に比べて余りに恵まれた待遇に、「こんな楽で良いのか?此れで給料を貰うっていうのは、何か申し訳無い気がする。」といった言葉を良く口にしていました。しかし公務員生活をずっと送る中、そういった待遇に全く疑問を感じなくなった様で、時には「国民の為に働いているんだから、恵まれた待遇も当然。」といった感じが見え隠れする様になった。勿論、全ての公務員がそうでは無いと思っているけれど、「『朱に交われば赤くなる』というのは、こういう事なのだろうなあ。」と思ってしまった次第。

どんな組織にも、好い加減な人間は居る。そして其の一方で、「現状を変えなければ!」と危機感を持っている人も居る筈。国の体力が未だ残存している間に、志の在る人間達が纏まって、おかしな所を改善して行かないと、此の国は本当に二進も三進も行かない状況に陥ってしまう事でしょう。
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