ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「小さいおうち」

2010年08月29日 | 書籍関連
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昭和5年、尋常小学校を卒業した布宮タキは女中奉公東北の田舎から上京。兄弟6人の内、彼女の上4人は全て奉公に出ており、裕福では無い家庭の子としては、当然の様な流れだった。

幾つかの家庭で女中として働いて来たタキ。生涯を独身で通した彼女には、忘れられない一つの家が在った。玩具会社の重役を務める優しい旦那様、若くて綺麗な奥様、そして愛らしい坊っちゃんが住む「平井家」だ。坂の上に在る赤い屋根の小さな家で女中として幸せな日々を送っていた彼女だったが、時代は戦争への道を進んで行き・・・。
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「女中」という言葉も死語化した感が在るけれど、第143回(2010年上半期)直木賞を受賞した「小さいおうち」(著者:中島京子さん)は、ブルジョア階級の家庭で女中として働く一人の女性の目を通し、昭和初期から第二次世界大戦後の世相と、其の時代を生きた1つの家庭の内情を描いている。「女中だったタキが過去を回想する文章」という形でストーリーは展開して行くのだが、中には「文章を書いている時点では『現在』」の事柄も出て来て、其処には彼女のの次男で在る大学生の健史も登場する。大伯母・タキの家を訪れては、彼女が書き綴る手記の内容を揶揄したり、疑問を呈したりする健史。「昭和初期から終戦直後」に関しては書物や映像でしか情報を知り得ない健史にとって、此の時代は「暗くて殺伐としたイメージ」しか無いのだろうが、其の時代を実際に生きたタキからすると「戦争の末期は確かにそうだったかもしれないけれど、其れ以前は必ずしも“暗闇の世界”では無かった。」という反発が在り、「『実際に其の時代に身を置いた者』と『書物等からの情報しか知らない者』とのギャップ。」が興味深い。

著者の中島京子さんは1964年生まれと言うから、当然乍ら「昭和初期~終戦直後」の時代には生まれていないのだが、タキが記す当時の状況(特に食事に関する部分。)が余りにもリアルで、実際に彼女が此の時代を生きていたかの様な錯覚すらしてしまう。実に見事だ。

「平井家」というブルジョア家庭を取り上げているが、其処に登場する人々は極めて平凡と言っても良い。市井の臣の生活が、戦争の激化によって微妙に変化して行く。「其の父親がスパイの容疑で逮捕された事により、親友(逮捕された男の息子)と疎遠な関係になってしまった事。」を、年老いた平井家の一人息子(愛らしかった坊っちゃん)が悔やむシーンは心を打つ。

最終章で「或る手紙の行方」が明らかとなるが、個人的には「良く在るドラマの落ち」の様な感じがして残念だったけれど、全体的には直木賞受賞が頷ける好作品。総合評価は星4.5個

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