**********************************************************
成長著しいIT企業「スピラリンクス」が、初めて行う新卒採用。最終選考に残った6人の就活生に与えられた課題は、1ヶ月後迄にチームを作り上げ、ディスカッションをするという物だった。全員で内定を得る為、波多野祥吾(はたの しょうご)は5人の学生と交流を深めて行くが、本番直前に課題の変更が通達される。其れは、「6人の中から、1人の内定者を決める。」事。仲間だった筈の6人は、1つの席を奪い合うライヴァルになった。
内定を賭けた議論が進む中、6通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を開けると「XXは人殺し」だという告発文が入っていた。彼等6人の嘘と罪とは?そして、犯人の目的とは?
**********************************************************
「2021週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の6位、「このミステリーがすごい! 2022年版【国内編】」の8位、そして「2022本格ミステリ・ベスト10【国内編】」の4位に選ばれた小説「六人の嘘つきな大学生」(著者:浅倉秋成氏)を読了。表紙に描かれているイラストが印象的で、ずっと気になっていた作品だ。
新進気鋭のIT企業「スピラリンクス」が初の新卒採用を行う事となり、5千人を超える学生が応募。選考過程で次々と篩い落とされ、最終選考に残ったのは6人。人事部長は「1ヶ月後、此の6人でチームを組んで貰い、『スピラリンクスが実際に抱えている案件と似た物を提示し、其れをどう進めて行けば良いか?』をディスカッションして貰う。内容の出来が良ければ、6人全員に内定を出す。」と説明。「きちんとした結果を出せば、好待遇の企業に全員入れる。」という“餌”を撒かれた6人の学生達は、1ヶ月後に向けて一致団結し、対策ミーティングを繰り返していたが、最終選考の直前になって人事部から、選考内容の変更が伝えられる。「東日本大震災の被害を受け、経営環境が悪化し、内定者を1人だけにする事となった。」という物で、其れ迄は和気藹々とした雰囲気だった彼等の関係に変化が生まれる。そして、臨んだ最終選考で、彼等の“旧悪”を告発する文章が次々と明らかになり・・・というストーリー。
「全員が、内定を貰えるかも知れない。」という事で一致団結していた6人の学生達が、「内定は1人だけ。」という突然の変更、そして何者かによる“自分達の旧悪”が告発されて行く事で、ぎすぎすした関係となり、疑心暗鬼に陥って行く。人間の醜い部分が露呈されて行くのは決して気持ちが良い物では無いが、一方でストーリーの中にどんどん引き込まれて行くのも事実。
非常に面白い作品だが、残念なのは“犯人の犯行動機”。殺人事件が扱われた作品では無いけれど、「そんな動機で、犯行が行われたの?」という疑問が残る。「そんな動機だとしたら、犯人は余りにピュア過ぎる。」と思うからだ。
タイトル通り、6人の学生達は皆、大なり小なり嘘を吐く。内定を勝ち取る為の嘘だが、嘘を吐いているのは彼等だけでは無い。就職試験を巡って繰り広げられる“採用する側”と“採用される側”の嘘吐き合戦は、就職活動の問題点を提示している。問題点と言っても、正しい答えが見出だせない問題なのだけれど・・・。
総合評価は、星3.5個とする。