******************************************************
神奈川県警刑事部長・竜崎伸也(りゅうざき しんや)の下に、著名な小説家・北上輝記(きたがみ てるき)が小田原で誘拐されたという報が舞い込む。
犯人も目的も安否も判らない中、竜崎はミステリー作家・梅林賢(うめばやし けん)の助言も得乍ら、捜査に挑む事に。
劇場型犯罪の裏に隠された、悲劇の夜の真相とは?
******************************************************
今野敏氏は多くの人気シリーズを著している作家だが、警察小説「『隠蔽捜査』シリーズ」もそんな1つ。「“エリート中のエリート”といって良い存在の竜崎伸也は、息子の不祥事によって大森署の署長へと“左遷”されてしまうのだが、『私利私欲とは無縁で、原理原則に基づき、国家公務員として在るべき姿を忠実に全うするだけ。』という思いしか無い彼は、腐る事無く、今迄通りに言動する。そんな彼を周りは最初“変人”扱いし、反発したり、距離を置いたりもするのだけれど、彼のぶれない姿勢や人間性に魅了され、軈ては“シンパ”に変わって行く。」というストーリーだ。
今回読んだ「一夜 隠蔽捜査10」は「『隠蔽捜査』シリーズ」の第13弾で、「著名な小説家・北上輝記の誘拐事件を、警察の人間で在る竜崎伸也が、北上と知己の関係に在るミステリー作家・梅林賢の助言を得乍ら、解決に結び付けて行く。」という展開。
基本的には頭が固いのだけれど、妙な所で柔軟さを見せる竜崎。今回もそんな部分を前面に打ち出しているのだが、様々な人と触れて行く中で、戸惑い乍らも少しづつ柔軟さを増して行っている。特に、最後の1文に頬が緩んでしまった。
事件の真相等を含め、ミステリーとしては特筆すべき所は無い。気軽に読める作品といった感じだ。
そんな作品だが、作家・今野敏氏が“作家が置かれている環境”をリアルに描いている部分は興味深かった。本好きの自分としては、書店に作品が並んでいる作家、特に売れっ子作家の存在は「多くの人が知っている。」と思ったりするのだが、実際にはそうでは無いと。
******************************************************
・「私たちはね、保証なんて何もないんだ。売れなくなったら終わり、書けなくなったら終わり。常にその不安におののいているんですよ。」。
・「ネームバリューというか、ニュースバリューというか・・・。有名作家といっても、世間では名前を知らない人のほうが多い。」。「私も当初、北上輝記と言われて、ぴんときませんでした。」。「あんたは本当に正直だな。だからさ、作家なんてそんなもんなんだよ。もし、有名芸能人が誘拐されたとして、それがネットに発表されたら、世の中の騒ぎはこんなもんじゃないだろう。」。
・「まあ、俺も稼いでいるほうだよ。だがね、稼いでいる作家なんて、ほんの一握りなんだよ。」。「そうなのですか?」。「一割の法則というのがあってね。」。「一割の法則・・・。」。「世の中で作家と呼ばれている人々のうち、専業でちゃんと食えているのは一割くらい。」。「そんなものなのですか?」。「そう。あとは兼業作家とか親や嫁さんに食わせてもらっているやつらだ。兼業で多いのは大学の先生だな。中にはバイトの収入だけで食うや食わずのやつもいる。」。「ほう・・・。」。「そして、その一割の専業作家の中で、人気作家はさらにその一割くらいだ。そして、ばりばり稼いでいる売れっ子はさらにその一割・・・。」。「つまり。0.1パーセントということですね。」。「それが実情だよ。売れっ子が目立つから、作家は儲かっているように思われがちだが、大半はちゃんと食えていないわけだ。」。
******************************************************
綜合評価は、星3つとする。