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断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子(草笛光子さん)は、新聞やTV番組をぼうっと眺める、鬱々とした日々を過ごしていた。同じ家の2階に暮らす娘・響子(真矢ミキさん)や孫・桃子(藤間爽子さん)には、愛子の孤独な気持ちは伝わらない。
同じ頃、大手出版社に勤める中年編集者・吉川真也(唐沢寿明氏)は昭和気質で、コミュニケーションがパワハラだ、セクハラだと問題になり、謹慎処分となる。妻や娘にも愛想を尽かされ、仕事にもプライヴェートにも悶々とする日々。
そんな或る日、吉川の所属する編集部では、愛子の連載エッセー企画が持ち上がり、吉川が愛子を口説き落として、晴れて担当編集者となるが・・・。
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詩人・サトウハチロー氏を異母兄に持ち、小説「戦いすんで日が暮れて」で第61回(1969年上半期)直木賞を受賞した佐藤愛子さん。90歳で断筆宣言をした彼女が、「女性セブン」に連載していたエッセーに加筆&修正を加え、2016年に上梓した本「90歳。何がめでたい」は、2017年11月7日に“発行部数100万部達成”と大ベストセラーを記録。今回観た映画「90歳。何がめでたい」は、其の本を映像化した物。
佐藤愛子さんの作品を、実際に読んだ事は無い。「戦いすんで日が暮れて」という小説の存在は知っているけれど、個人的には「佐藤愛子さん=大昔のTV番組で、舌鋒鋭く世の中を斬る御婆さん。」という印象が強い。
今回の作品で監督を務めたのは前田哲氏。3年前に上映された映画「老後の資金がありません!」でもメガホンを握っているが、同作品でタッグを組んでいたのも草笛光子さん。此の作品が滅茶苦茶面白かった(総合評価:星4つ)ので、「90歳。何がめでたい」を観に行ったのだが、正直、“面白さ”という点では「老後の資金がありません!」に及ばなかった。
でも、高齢者ならではの言動、又、其の背景に在る物が描かれていて、そういう面では興味深かった。「若い頃は、年配者の言動に納得が行かない事が結構在ったけれど、自身が馬齢を重ねた事で、理解出来る部分が少なからず出て来た。」というのが在り、此れは同年代の友人も同じ事を言っている。なので、「『年寄りの言ってる事は全て時代遅れで在り、聞く耳を持たなくて良い。』という主張はどうかと今では思うし、そういう“単純な切り捨て”は結局、“新たな気付き”を自ら放棄する事にも繋がる。」という懸念を持っている。
佐藤愛子さん、自分の父方の祖母が似た感じだった。「自分を支えてくれる親族にずっと囲まれている事で、“御山の大将的な言動”を続けて来られた。」という部分がそう。佐藤愛子さんは現在100歳だが、父方の祖母も“大往生”と言える程迄長生きをした。一方、母方の祖母は全ての面で“控えめな人”だったが、当時の平均寿命には及ばない年令で亡くなっている。「他人様に迷惑が掛からない範囲でならば、“御山の大将的な言動”をしていた方が長生き出来る。」という事なのかも知れない。
90歳になっても、矍鑠とした演技を見せ続けている草笛さん。“超高齢社会に於ける鑑”と言って良い存在だが、今後も益々活躍して欲しい物。
総合評価は、星3つとする。