作家の西村京太郎氏が亡くなられた今、赤川次郎氏と並んで“多作の作家”と言えば、中山七里氏という事になるのではなかろうか。2010年に小説「さよならドビュッシー」で文壇デビューして以降、60冊を超える作品を上梓しているのだから。そんな中山氏の小説「鑑定人 氏家京太郎」を読了。
************************************************
民間の科学捜査鑑定所「氏家鑑定センター」。所長の氏家京太郎(うじいえ きょうたろう)は、女子大生3人を惨殺したとされる猟奇殺人犯・那智貴彦(なち たかひこ)の弁護士・吉田士童(よしだ しどう)から、再鑑定の依頼を受ける。
容疑者の那智は、2人の殺害は認めるが、もう1人への犯行は否認している。相対する警視庁科捜研との火花が散る中、裁判の行く末は?
************************************************
「“鑑定人”に関する事柄を、良く調べ上げているなあ。」というのが、読み終えた際の感想。良く調べ上げているからこそ、内容にリアリティーを感じさせる。
************************************************
「最近、裁判員に選ばれても辞退する市民の割合が七割に迫った。理由の最たるものが裁判の長期化であるのはあなたも知っているだろう。」。
今から八年ほど前、初公判から判決までの平均期間は3.7日だったが、2016年には9.5日まで延びた。評議時間の平均も同様で、397分だったものが16年には731.9分と1.8倍になっている。しかも公判は平日にしか開かれない。これでは真っ当な職業に就いている市民から敬遠されがちになるのも当然といえた。
************************************************
2009年から導入された「裁判員制度」だが、色々と問題点は在るものの、選ばれた裁判員は殆ど辞退する事無く、きちんと運用されていると思っていた。なので、「裁判員に選ばれても、7割近くが辞退している。」という現実は驚きだったが、“裁判の長期化”という事を考えると、「そうなるだろうな。」という思いに。
面白い作品では在るのだが、「真犯人が読めてしまう。」のが最大の欠点。詳しい事は書かないが、「“絶対にそういう事をしないで在ろう人”が、“そういう事”をしてしまうとしたら、其処に“大きな理由”が在るから。『誰かを守る。』というのが大きな理由としたら、真犯人は1人しか存在しない。」という観点から推理すれば、多くの人が“正解”を見付け出せるだろう。
総合評価は、星3つとする。