2018年に日本で実施された人工妊娠中絶(以降、“中絶”と記す。)の手術は約16万件。同じ年の出生数が約92万人なので、妊娠した人(約108万人)の約6.7人に1人が中絶を選択している計算になるそうだ。中絶手術を巡る問題を、週刊朝日(7月17日号)では「5万円で格安妊娠中絶手術のカラクリ」という記事で取り上げている。
妊娠12週以降の中絶は、母体へのリスクが高まる。中絶手術が実施出来る母体保護法指定医に向けて制作された「指定医師必携」(日本産婦人科医会)には、12週以降の中絶手術のリスクに付いて「中絶による母体障害率は、妊娠12~15週に於ける中絶が最も高い。」、「妊娠初期の中絶に比して、事故の頻度が高いので注意する。出来るだけ中期中絶にならぬ様な指導が大切で在る。」と記されている。「12週以降の中絶手術は子宮を傷付けて、次の妊娠・出産に影響する可能性が在るので、中絶時期を遅らせる様に誘導する事は、医師として許されない行為。」と、記事の中で現役の医師は語っている。
ところが、神奈川県内のX産婦人科では、公式ホームページとは別に設けられた中絶専用のホームページの中で、『妊娠12週迄待てば5万円』と格安料金を掲げ、中期中絶を勧める様な広告。』が出されていたと言う。(今年1月迄に複数回の指導が入った結果、現在は中絶専用のホームページから、12週以降の中絶手術に誘導する様な記述は削除。)X産婦人科の広告には、「12週から、保険証で割安に。」という記述も。
12週以降の中絶費用が割安に出来るのには、「12週以降の中絶手術は、通常の出産と同じ様な処置が必要で、中絶希望の女性は40万円以上の医療費を支払わなければならないが、其の一方で12週以降の中絶手術では、40万4千円の出産育児一時金が健康保険組合から病院に支給される。だから、結果として患者の自己負担分は減らす事が出来、又、病院としても売り上げは減らない。」という理由が。
そして、X産婦人科の中絶専用ホームページには「妊娠15週台迄日帰り手術可。」という記述も。休みが取り辛い女性にとっては有難いサーヴィスにも思えるが、X産婦人科の元職員は「X産婦人科では、12週以降の中絶手術でも手術当日に来て、終わったら自宅に帰る女性が沢山居ました。術後の診察も来ない人が多い。入院しても、日帰りでも、病院が受け取る約40万円の出産育児一時金の額は同じ。日帰りで手術を受けてくれる女性の方が、病院にとって利益率が高いと言えます。」と、病院側のメリットを証言している。
妊娠11週以前を含めると、X産婦人科の中絶手術は月に300件を超える時も在るとか。神奈川県の同じ規模の病院では、中絶件数は月に5~6件程度と言うので、X産婦人科の件数は突出している。
X産婦人科の様なあからさまに中期中絶に誘導する様な記述は無くても、「12週以降の中絶手術は価格が下がる。」とアピールする病院は少なく無く、昨年11月には国会の参院厚生労働委員会では厚生労働省に対し、「多くの産婦人科のホームページは、12週から後は中期中絶なので体に対する負担が重いと書いてある。(X産婦人科は)そういう事では無くて、経済で(12週以降の中絶に)誘導して行く。(中略)母体保護法上の違反になるのか?」という質問がされた際、厚生労働省の担当者はX産婦人科の記述に付いて「直ちに母体保護法違反と言う事は出来ない。」と回答。
中絶する女性の側からすれば「格安で、日帰り手術も出来る。」というのは有難いだろうし、X産婦人科としても「利益が上がる。」という事で、双方にとってWin-Winの状況にも思えるが、でも、実際には患者の側に“母体へのリスクが高まる可能性”が在る訳で、看過出来ない問題だろう。