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美谷時計店には、「時計修理承ります」だけで無く、「アリバイ崩し承ります」という貼り紙が在る。「時計に纏わる御依頼は何でも承る」のだと言う。難事件に頭を悩ませる捜査1課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ・・・7つの事件や謎に、店主の美谷時乃(みたに ときの)が挑む。
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2019本格ミステリ・ベスト10【国内編】」の1位に選ばれた小説「アリバイ崩し承ります」(著者:大山誠一郎氏)は、7つの短編小説から構成されている。
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「アリバイがあると主張する人は、何時何分、自分はどこそこにいたと言います。つまり、時計がその主張の根拠となっているのです。」。「まあ、そうですね。」。「ならば、時計屋こそが、アリバイの問題をもっともよく扱える人間ではないでしょうか。」。
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幼稚園の年長組の時、自動車事故で両親を亡くした美谷時乃は、祖父に引き取られ、そして育てられた。祖父は美谷時計店を営んでいたが、上記の判った様で良く判らない理由から、時計の販売や修理等の“本業”以外に、アリバイ崩しを「1件5千円」で承って来た。そんな祖父から小学3年生の頃より、時計に関してのみならず、アリバイ崩しのノウハウも鍛え込まれて来た時乃は、祖父の死によって店を引き継ぐ。
ミステリーの世界では、“安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティヴ)”という用語が存在する。「部屋から出る事無く、或いは現場に赴く事無く、与えられた(又は得た)情報のみを元にして、事件を推理する探偵、或いは其の様な趣旨の作品。」を意味するが、「アリバイ崩しをして貰うべく、事件の情報を持ち込んで来た新米刑事に対し、店内で即座にアリバイ崩しをする時乃は、正に安楽椅子探偵と言えよう。
アリバイ崩しに特化した作品という事も在り、設定面で余り現実味が感じられない所が結構在る。そういう所が「本格ミステリーを対象にした『本格ミステリ・ベスト10』では1位に選ばれるも、一般受けするミステリーを対象にした様な『週刊文春ミステリーベスト10』や『このミステリーがすごい!』ではベスト10に入らなかった要因。」の様に思う。
“余り現実味が感じられない設定”というのが、個人的には作品世界にのめり込めなかった。でも、用いられたトリックは面白く、第5話「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」なんぞは、「良くもまあ、こんなトリックを考え付いたなあ。」と感心。(とは言え、余り現実味が感じられない設定では在るのだけれど。)
総合評価は、星3つとする。