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新聞記者になる事が将来の夢だった小6の羽角菜月(はずみ なつき)が高校生、大学生となり、そして夢を叶えた中で、数々の事件に遭遇する。母娘の際立つ推理力が導き出した、難事件の真相とは?
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長岡弘樹氏の小説「球形の囁き」は、「刑事で在った夫が殉職後、強行犯係の刑事として働く羽角啓子(はずみ けいこ)と新聞記者になる事が将来の夢の一人娘・菜月が、2人で難事件の謎を解き明かす。」という作品で、長岡氏の「傍聞き」、そして「緋色の残響」(総合評価:星3.5個)に続く第3弾。5つの短編小説から構成されている。
長岡作品を読んでいて感じるのは、「東野圭吾氏の作品とテーストが似ているなあ。」という事。文体も在るのだろうが、「作品に理系的な内容が盛り込まれている。」というのが、東野作品と似た感じをさせるのだろう。
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「はい、ありがとうございます。―これは野菜の栽培からちょっと横道にそれる話になりますが、うんと苦いキャベツでも、いま手を挙げた方たちのように、まれに平気で食べられる人がいるんです。苦さを感じない体質というのがあるわけですね。お父さんとお母さんがそういう人だと、その体質は遺伝して、百パーセントに近い確率で子供もそうなります。けれども、これは病気ではないので、まったく心配は要りません。」。(「路地裏の菜園」)
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「緑色の暗室」及び「路地裏の菜園」という作品は、犯人も謎解きの“鍵”も、早い段階で判った。表題作の「球形の囁き」及び「落ちた焦点」は着眼点は面白いものの、後味は良く無い。「黄昏の筋読み」という作品は、「行動心理学の観点から面白い。」と思った。でも、全体的に言えば、長岡作品としては「うーん・・・。」という感じ。
「緑色の暗室」では高校2年生だった菜月が、最後の「黄昏の筋読み」では小学2年生・彩弓(あゆみ)の母親になっている。其の間に念願の新聞記者になっているのだけれど、心に深い傷を負う事にもなる。又、母の啓子も「黄昏の筋読み」では既に定年退職している設定となっており、「1冊の本の中で、結構な時間が経過している。」という訳だ。
啓子と菜月という母子、共に“連れ合い”を失っているという共通点が。(菜月の場合は、相手が亡くなった訳では無いけれど。)そして、啓子と菜月、そして彩弓という「祖母・娘・孫」という3代には、どうやら“卓越した観察力&推理力”が備わっている様で、続編が在るとしたら、「3代が揃って謎を解く。」という形になりそう。
総合評価は、星3つとする。