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其の日、東京第一銀行に激震が走った。頭取から発表されたライヴァル行との合併。生き残りを懸けた交渉が進む中、臨店指導グループの跳ねっ返り・花咲舞(はなさき まい)は、ひょんな事から「組織の秘密」というパンドラの箱を開けてしまう。隠蔽工作、行内政治、妖怪重役・・・此の儘では我が行は駄目になる!
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池井戸潤氏の小説「花咲舞が黙ってない」は、「花咲舞シリーズ」の第2弾。第1弾のタイトルが上梓されたのは13年前の2004年で、其のタイトルは「不祥事」。此の原作を元にしてTVドラマ化されたのが「花咲舞が黙ってない」で、放送は2014年の事。
其れ迄「オレバブシリーズ」と呼ばれていたのが、2013年に原作を元にTVドラマ化された際、主人公の名前「半沢直樹」をタイトルにして大ヒットし、以降、「半沢直樹シリーズ」と呼ばれる様になった事から、「不祥事」がTVドラマ化された際も同様に、主人公・花咲舞の名前を冠したタイトルに変えられた。そして先月、13年振りに上梓された「不祥事」の続編タイトルが、後追いで「花咲舞が黙ってない」となった次第。
舞台となっているのは、20世紀末の日本。一般的に「バブル崩壊」は1991年3月~1993年10月の間を指すが、20世紀末と言えば我が国では、大手を含むゼネコンが会社更生法を適用したり、債務免除で生き延びる等していた時代。金融業界でも北海道拓殖銀行や山一證券、日本長期信用銀行、日本債権信用銀行といった大手が次々と経営破綻し、生き残った銀行も“体力”を付けるべく、再編の道を歩み出した波乱の時代。池井戸氏は1988年から1995年迄銀行に勤務していたので、20世紀末は外部から金融界を見ていた訳だが、元銀行マンとして見聞して来た“現実”を元にしているからこそ、彼の小説は面白い。
誰しも人は生きている限り、不条理な出来事に少なからず直面させられる。そういった不条理な出来事に対し、不本意乍ら従わなければならない事も在る。否、余程強靭な心を持っている人ではないと、「従わざるを得ない。」というのが大半だろう。そういった人達は“自身の思い”と“現実”の前に苦しみ、強いフラストレーションを抱え込む。池井戸作品はそんなフラストレーションを吹き飛ばし、カタルシスを得させてくれるから、多くのファンを持つのだろう。
今回の「花咲舞が黙ってない」、他の池井戸作品同様に、主役も脇役お悪役も、皆キャラ立ちしている。ハラハラドキドキさせてくれる展開も魅力的だし、100%のカタルシスは得られないけれど、「真面目に生きるって、凄く大事な事。」というのを改めて感じさせてくれる。こういう時代だからこそ、余計にだ。
池井戸作品のファンにとって嬉しいのは、作品の垣根を越えて半沢直樹が登場する事。ちょい役なのが、残念では在るのだけれど。
総合評価は、星4つとする。