過去に「ダルマ宰相」という記事を書いた様に、高橋是清元首相は好きな政治家の1人だ。私生児として生まれ、少年時代には留学先のアメリカで奴隷同然の扱いを受ける等、波乱万丈な人生を送った彼だが、逆境にめげる事無く、首相に迄登り詰めた人物。大蔵大臣として日本の金融危機を何度も救う等、政治家として能力も極めて高かったと評価している。「人間的な魅力」に加え、「政治家としての能力の高さ」が在るからこそ、自分は彼が好き。
波乱万丈な人生を送った彼だが、人生の幕切れは正に、そんな彼の人生を象徴していると思う。1936年2月26日に発生した青年将校等によるクーデター未遂事件「2・26事件」にて、5度目の大蔵大臣を務めていた彼は、自宅の寝室で銃弾を浴びて殺害されてしまったのだ。
当ブログで何度も書いているけれど、「法に触れる事無く、且つ他者に迷惑を掛けないので在れば、人はどんな言動をしようが自由。」というのが自分のスタンス。其の一方で、「『自分の思考だけが唯一無二的に正しく、其れ以外の思考は全て誤り。』として、自らとは少しでも異なる思考を一切認めない。」という、多様性を認めないスタンスには嫌悪感を覚えている。況してや、自らと少しでも異なる思考を、暴力で排除しようとするスタンスには、唾棄の念在るのみだ。そういった思いにさせるのは、高橋元首相の暗殺という非道さが大きく影響している。
1993年、「江戸東京博物館」の分館として東京都が建設した「江戸東京たてもの園」は、敷地面積約7ヘクタールの中に、江戸時代から昭和初期迄の29棟の貴重な建造物が移築&復元されている。其の他にも「午砲」を始めとした、28の屋外展示物も。以前よりずっと行きたいと思っていた此の野外博物館に、今回漸と行く事が出来た。
「何故、そんなにも此の野外博物館に行きたかったか?」、其れは高橋元首相が暗殺された際の住居が移築されているから。「1人の有能な政治家が、無念の内に生を終えなければならなかった場所。」を、実際に此の目で確認したかったのだ。
【高橋是清邸-玄関側から】
【高橋是清邸-庭側から】
高橋是清邸は1902年に、港区赤坂7丁目に建てられたと言う。約2千坪の敷地に、総栂普請の建家。「2・26事件」の5年後、即ち1941年に母屋部分が多磨霊園に移築され、休憩所として使用されていたが、1993年に江戸東京たてもの園に移築された。赤坂7丁目に残っていた他の建造物は、空襲で全て焼失してしまったとか。
元首相が暗殺された寝室は2階に在る(上の「高橋是清邸-玄関側から」という写真で、2階の向かって右に見える部屋。)のだが、2階に上がる階段が想像していた以上に狭かったのが印象的だった。こんな狭い階段を、青年将校達が駆け登って行ったのか・・・と。又、「和風邸宅に窓硝子を使った初期の事例」という事だが、今とは違って硝子の表面が微妙に凸凹している所に時代を感じたりもした。
【万世橋交番】
【都電7500形】
【天明家(農家)1】
【天明家(農家)2】
【常盤台写真館】
【子宝湯】
【下町中通り】
高橋是清邸以外で特に印象に残ったのは、「前川國男邸」と「三井八郎右衞門邸」。
【前川國男邸】
1905年生まれの前川國男氏は、モダニズム建築の旗手として著名な建築家だと言う。1942年に品川区上大崎に建てられた彼の邸宅、外観は切妻屋根の和風(シンメトリックな佇まいが印象的。)で、内部は吹き抜けの居間を中心としたシンプルな作り。1942年と言えば太平洋戦争の真っ只中で、建築資材の入手が非常に困難だったと思われるが、ロフトが在ったり、現代風のバスタブやトイレ在ったりと、とても70年前の家とは思えないモダンさ。1928年から1930年に掛けてパリの建築事務所で働いていた事が、当時としては斬新な家作りと相成ったのだろう。
【三井八郎右衞門邸】
三井家11代当主「三井八郎右衞門」こと三井高公氏が、1952年に港区西麻布に建てたのが三井八郎右衞門邸。外観は其れ程でも無いのだけれど、中に入ると「流石は三井財閥当主の邸宅!」と感嘆してしまう程に豪華な作り。兎に角、だだっ広くて、迷路の様な室内。きらびやかさは無いのだけれど、使われている部材の1つ1つが上質。蔵内部の立派な梁や柱だけでも、一見の価値が在る。
古い建造物は良い!見ているだけで、心が安らぐ。
小金井公園そのものには自転車で行った記憶があるんですけどね。
此の近辺に住んでおられたのですね。自分は初めて訪れた場所だったのですが、開けた住宅街の中、木々の多い広い公園が在る環境は中々良かったです。
以前よりずっと行きたかった場所だったけれど、想像していた以上に見応えの在る建造物が立ち並んでおり、行かれた事が無い方々には是非とも御薦めの場所。
前川さんの作品は全国に多いので「え、これも」と思うようなものもあります。この人と丹下健三(広島平和資料館、代々木体育館等)の二人の影響は大きいので、全国の文化会館、図書館、役所は「これは前川風かな」と思うもの、これは丹下風?と思うものたくさんあります。「~風」と思ったら稀にご本人製だったりします(笑)
自分は歴史が大好きなので、歴史的な興味から見に行ったのですが、建築物に御興味の在る方も十二分に堪能出来るスポットだと思います。
前川國男氏の御名前は存じ上げていなかったのですが、其の斬新な発想力には脱帽。とても戦時中の建築物とは思えない、現代風の魅力的な内容でした。