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「theyの三人称単数OK 性的少数者に配慮」(5月18日、毎日新聞)
「he」(彼)とも「she」(彼女)とも呼ばれたくない人を指す時に、「they」を三人称単数で使う事を認める。米国のAP通信が、配信記事の英文表記に、こんな新ルールを加えた。「性別で分けられたくない。」、「自分は、男でも女でも無い。」と感じる性的少数者(LGBT等)に配慮した対応だが、此の単数「they」、日本語でどう訳す?
AP通信は、自社の英文表記の基準を纏めたスタイルブックを毎年発行し、多くの作家やジャーナリストが利用する。新ルールは、今月末に発行される2017年度版に追加される。
theyは、日本の英語教育で最初に習う三人称複数の人称代名詞だ。性の区別は無く、文脈で「彼等」、「彼女達」と訳す。
AP通信によると、2017年度版の同書では「性的少数者を表す際には、heやsheでは無く、名前や職業を用い、他に言い換えられない時のみ、theyを使う。」とする。続くbe動詞は、三人称複数と同じ「they are」とし、文脈で誤解の無い様にする。
単数theyは、2015年に米有力紙ワシントン・ポストが採用し、米国流行語大賞に選ばれた。だが、全世界に記事を配信するAP通信が採用する影響は大きい。
「漸とメディアが認めた。少しずつ定着するだろう。」。性的少数者の問題に詳しい一橋大のソニア・デール専任講師は評価する。「単数theyは、研究者や当事者の間で10年程前から使われていたが、be動詞を『they is』とする論文も在り、使い方は区々でした。」。
体は女性、心は男性という自身の性同一性障害(GID)を自伝「ダブルハッピネス」(講談社)で公表した杉山文野さん(35歳)も歓迎する。「言葉に決め付けられ、イメージに当て嵌められる窮屈さを常に感じていた。選択肢が増えるのは良い事。」。自伝出版後に「GIDの杉山さん。」と言われ続け、息苦しくなって、海外を放浪。「息苦しいのは日本だけと思ったら、世界中でミスかミスターか、マドモアゼルかムッシューかと問われた。」と振り返る。
一方、女性装を始めて3年以上になる東京大東洋文化研究所の安冨歩教授は「新たな代名詞でLGBTを“特別な存在”と宣伝するのは苦肉の策だろうが、良いとは思えない。」と懐疑的だ。
単数theyを、日本語にどう置き換えるか。「heやsheの訳語『彼/彼女』は、明治以降に欧米文を翻訳する中で定着した。」と、日本語学者の岡崎友子・東洋大教授は指摘する。元々、遠くの物や人を指す「かれ/かの」という古語(現代語の「あれ/あの」に相当。)を再利用した訳語で、「彼女」は「かの・おんな」が変化した物だと言う。
古語「かれ/かの」には男女の区別が無く、森鴎外も小説「舞姫」でヒロインのエリスを「彼」と表記した。岡崎さんは「現代でも『彼の人』、『其の人』、『此の人』とすれば、男女の区別無く、特定の人物を指せます。」と話す。
AP通信の新ルールに付いて、海外の通信社電を扱う毎日新聞外信部は「ルールの趣旨を踏まえ、性的少数者に付いては男女の別を明示する代名詞を避け、名前や肩書を用いる等、柔軟な日本語訳を心掛けて行く。」としている。
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小遣い稼ぎでマーケティング・リサーチのサイトに会員登録しているのだが、何年か前から送られて来るアンケートに、若干の変化が見られる様になった。アンケートには回答者の属性、即ち「性別」や「年齢」、「職業」、「居住地」等を問う項目が在る。昔は「性別」の回答項目と言えば、「男性」か「女性」しか無かったのだが、何年か前からは「其の他」という項目が付け加わった場合が増えたのだ。性的少数者への配慮でも在り、又、「そういう項目を設けなかった事で起こるトラブルを避けたい。」という思いも在るのだろう。
「郵政民営化に賛成か?其れとも反対か?」を全面に打ち出し、圧倒的な支持を集めた小泉純一郎元首相。思えば彼が首相になった21世紀初め辺りから、「イエスかノーか?其れ以外は、一切在り得ない。」的な論調が我が国では幅を利かし始め、其の流れとして“多様性を一切認めない風潮”が安倍政権下で強まっている様に感じる。
“ネトウヨ”的な人達の言動に共通するのは、「〇〇ならば、XX以外は在り得ない。」といった無根拠な決め付けが目立ち、其処から少しでも異なる外れ存在を排除するというスタンス。必要以上に着物姿をアピールしたり、相撲や歌舞伎好きを公言するのも、「そういった物が心から好き。」というよりも、「日本人なら着物や相撲、歌舞伎等が好きじゃないとおかしい。」という“自己陶酔”の匂いが露骨に伝わって来るので、「何だかなあ・・・。」という思いが在る。(着物や相撲、歌舞伎等を心から愛している人も、世の中には大勢居る。そういう人達は普段の言動から判るし、「何だかなあ・・・。」という思いを持った事は無い。)
まあ、どう考え様が個人の自由なので「御勝手に。」と思うのだけだが、問題は「其の主張を他者に強い、少しでも従わなければ、力尽くで排除し様とするアレな人達。」で在る。そういった多様性を一切認めない人達にとっては、性別と言えば「男性」or「女性」の二択しか存在し得ない事だろう。
自分は性的少数者に属さないけれど、「自分は、男でも女でも無い。」という感情を持つ人の気持ちは理解出来る。「公的な書類に関しては、『男性』or『女性』という生物学的二択になってしまうのは『止むを得ない。』と思うものの、其れ以外では『其の他』等の選択肢が在っても良い。」と考えている。だから、今回のAP通信の決定は、悪い事では無いと思っている。唯、読み手が混乱しない様な配慮は必要だろうけれど。