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四国から東京に戻った「おれ」こと“坊っちゃん”は、元同僚の“山嵐”と再会し、教頭の“赤シャツ”が自殺した事を知らされる。無人島“ターナー島”で首を吊ったらしいのだが、山嵐は「誰かに殺されたのでは?」と疑っている。坊っちゃんは其の死の真相を探る為、四国を再訪する。調査を始めた2人を待つ驚愕の事実とは?
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文豪・夏目漱石氏の名作「坊っちゃん」を底本とし、“其の後の坊っちゃん”をミステリー仕立てにした小説が、柳広司氏の「贋作『坊っちゃん』殺人事件」。“坊っちゃん”や“山嵐”、“赤シャツ”の他に、“清”、“野だいこ”、“うらなり”、“マドンナ”、“狸”と、「坊っちゃんワールド」を彩る個性的なキャラクターが登場している。
「うらなりの婚約者だったマドンナに横恋慕し、教頭という立場を利用してうらなりを左遷させた赤シャツ。義憤に駆られた坊っちゃんと山嵐は、赤シャツと其の腰巾着の野だいこの醜聞を暴くが、結果として坊っちゃんも山嵐も辞職する事となり、坊ちゃんは東京に戻って街鉄の技手となる。」というのが「坊っちゃん」の顛末だが、「坊っちゃん達が赤シャツ達の醜聞を暴いた翌日、赤シャツが無人島で首を吊って自殺していた事実を、3年後に坊っちゃんが知る。」という形で、「贋作『坊っちゃん』殺人事件」は始まる。
マドンナの一件を始めとし、「坊っちゃんが温泉の浴槽で遊泳した事等を、生徒から冷やかされる話。」や「初めての宿直の夜、寄宿生達から蚊帳の中に蝗を入れられた話。」等、「坊っちゃん」内の有名なエピソードが紹介されているのだが、「上手いなあ。」と思わず唸ってしまったのは、此れ等の何気無いエピソードの裏側に、意外な事実を“作り出して”いる点。「良くもまあ、こんな事実を考え出したなあ。」と感心してしまう。
中盤迄の盛り上がりを考えると、終盤は尻窄みな感が否めない。「えーっ、こんな終わり方なの!?」という残念さは在るものの、「坊っちゃん」を読んだ事が在る人ならば、其れなりに楽しめる内容だと思う。
総合評価は、星3つ。