43年間の漫画家生活で、600作を超えるといわれる作品を生み出した手塚治虫氏。小学校に入って間も無い頃、漫画「ノーマン」を読んだのが、手塚作品との“初接触”で、余りの面白さに以降、手塚作品を貪る様に読み漁って来た。一般的に入手出来る範囲では、略100%の手塚作品を読了していると思う。
「漫画は悪書。」と、漫画バッシングが盛んだった時代が在る。そんな時代、バッシングの矢面に立たされたのが手塚氏だった。1970年4月~11月、「週刊少年チャンピオン」に連載された同氏の「やけっぱちのマリア」は性教育を意図して描かれた作品だが、今とは違って子供達が“性情報に触れる機会”が極めて限られていた時代故、同作品への風当りは強かった様だ。1970年8月27日には、「此の作品が掲載されているから。」という理由から、「週刊少年チャンピオン」の1970年8月23日号が、福岡県児童福祉審議会から“有害図書”の指定を受けた事も。
神戸大学医学部感染症内科の岩田健太郎教授は、週刊新潮で「医者のけもの道」というコラムを連載している。5月1日号に掲載された第17回は、「人の寿命はゴムの様に伸びる」というタイトルだが、其の中で「此の間、ひょんな事から読んだ。」という「やけっぱちのマリア」に付いて触れている。
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では、何で此の漫画を紹介するのかというと、或る興味深い点が在ったからです。其れは、男女の違いを生まれて直ぐから紹介している齣で、第二次性徴・思春期から、老年に到る迄の男女差を示したかったんだろうと思います。
此れによると、男女は生まれてから10歳位迄は同じ様に成長します。が、其の後に思春期を迎え、男子は喉仏が出て、声変わりし、髭が生えて来て、顔がごつごつして逞しくなり、脛毛も生えて来ます。腕っ節が強くなり、顔が浅黒くなる(手塚の描写です。)。一方の女子はアンネ(生理の事)が来て、ボイン(此れも死語ですね。)が膨れて、20歳になると結婚適齢期、25歳迄に結婚しないとオールドミスです(飽く迄、手塚の描写です。)。
30歳になると男性は下腹が出て来て、35歳では皺が刻まれ、貫禄と共に疲れ易くなり、45歳でロマンス・グレー、50歳で老眼になって腰が曲がり、頭も禿げ上がり、60歳になると入れ歯で「ふがふが。」しています。女性は30歳で出産して急に「御母さん」タイプになり、40歳でサザエさんパーマででっぷり太って、45歳で皺が増えて更年期を迎え、50歳で矢張り老眼になって腰が曲がり、以下同文です。
此の漫画が掲載されたのは昭和45年(1970年)、僕が生まれる少し前の事です。
どうです、皆さん。興味深く在りませんか。当時の日本人は(手塚の描写によると)年を取るのがとても早いんです。
今は、人にもよりますが、腹も出ず、皺も無い30代も多いです。キムタクや福山雅治は一般化するには一寸・・・かもしれませんが、今の40代男性(僕も含めて・・・多分)はとても若い。50歳で腰が曲がっている人は殆ど居ません。女性にしても同様です。
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子供の時分、30代の人は見るからに、「小父さん」や「小母さん」という風貌の人が多かった。50代に腰が曲がっている人が少なくなかったかどうかは判らないけれど、60代だと「御爺さん」や「御婆さん」という風貌の人が多く、「60歳で還暦。」というのがリアルだった。
感覚的に言えば、「昔の30代は、今の40代後半。昔の60代は、今の70代後半。」といった感じ。昔、「80代はよぼよぼで、90代を迎えられるのは稀有。90代を迎えられても、殆ど寝た切り。100歳を迎えられる人なんか、まあ居ない。」というイメージだったのに、今では100歳超えの人が結構居り、物凄く元気な方も少なく無いのだから、年代のイメージも非常に変わったものだ。
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日本人は戦後、長寿化がどんどん進み、世界最高の長寿国となっているのは、御存知の通りです。でも、其れは単に70歳の寿命が80歳に、更にもっと、という感じで接ぎ木をする様に寿命が延びて行くのでは在りません。
寧ろ、ゴム紐を伸ばした様なイメージで、思春期以降の年の取り方がゆっくりになっているのだと思います。昔の映画を見ても、其れ其れ同年代の人が、随分と老けて見える事に気が付きます。
少子高齢化なんて良く言われますが、実際には現在の60代はバリバリ働ける人も多く、昭和40年代の60代の「老人」とは全然イメージが違うのです。単純に年齢で昔と今を比べても、余り意味が無い様な気がします。
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「ゴム紐を伸ばした様なイメージで、思春期以降の年の取り方がゆっくりになっている。」という表現、的を射ている様に思う。
歯については著名な杜氏のドキュメンタリーで、米の噛みすぎで若いうちに奥歯を失うという話が出てきましたので、当時の米食至上主義にも問題があったかもしれませんが(昭和20-30年代の「米食追放運動」はアメリカからの小麦を使うためのプロパガンダでしたが、一部理があったのかもしれません)
腰については重労働が多かったこととカルシウム不足と食物繊維過剰による圧迫骨折に早くからかかっていたことでしょうか。
1970年当時の男子大学生の平均身長は160センチ台ではないでしょうか。
昔の子供に比べると、今の子供は概して小顔で、足が長い。其の要因は色々在るのでしょうが、「昔に比べて硬い物を食さなくなった。→小顔化。」、「畳の上で座る生活習慣が、欧米化の影響で椅子に座る事が多くなった。→長足化。」という“説”は、結構理に適っている様な気がします。
「歯と腰は栄養の問題と、歯磨きの習慣の問題でしょうか。」、そんな感じはしますね。特に栄養の問題は大きい気がします。
今回の内容とは話が離れてしまうのですが、昔(昭和40~50年代)に比べると、「男性の外観に対する意識」というのは格段に変わった様に感じます。昔は、洋服は未だしも、眉を整えたり化粧品を使ったりという男性は、居たとしても極めて少数派だった。でも、今は・・・。
高校球児でも“御洒落さん”が多くなっているのですから、時代は変わったものです。