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夏の日の夕方、多摩川沿いを血塗れで歩いていた女子大生・聖山環菜(ひじりやま かんな)が逮捕された。彼女は父親・那雄人(なおと)の勤務先で在る美術学校に立ち寄り、予め購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、其の面接の帰りに凶行に及んだのだった。
環菜の美貌も相俟って、此の事件はマスコミで大きく取り上げられた。何故、彼女は父親を殺さなければならなかったのか?臨床心理士の真壁由紀(まかべ ゆき)は、此の事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜や其の周辺の人々と面会を重ねる事になる。其処から浮かび上がって来る、環菜の過去とは?
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第159回(2018年上半期)直木賞を受賞した小説「ファーストラヴ」(著者:島本理生さん)。「『娘は何故、父親を殺さなければならなかったのか?』という“謎解き”を軸に、環菜と由紀の“家族の本当の姿”が明らかとなって行く。」という内容。
恋愛を題材にした映画や小説、個人的には余り好きじゃ無い。此の「ファーストラヴ」も恋愛小説の範疇に入ると思うが、恋愛小説が苦手な自分でも読み進められたのは、石田衣良氏等の作品に見られる様な「“くどくどしいセックス描写”が無ければ、本当の恋愛は描けない的勘違い。」が無いからだろう。
「環菜と両親との関係性」や「由紀と両親との関係性」等、複雑な家族の関係性が描かれている。複雑だからこそ、色々考えさせられてしまうが、結末に“救い”が在るので、読後は不思議な程に爽やかさを感じた。直木賞受賞も、納得が行く作品。
総合評価は、星4つとする。