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・夏休み、小学3年生の高倉瑛介(たかくら えいすけ)は、血小板数値の経過観察で、1ヶ月以上入院している。退屈な毎日に、どうしたって苛々は募る。そんな或る日、「俺、田波壮太(たなみ そうた)。小学3年。チビだけど、9歳。」と陽気に挨拶する同学年の男子が病院に遣って来た。低身長のための検査入院らしい。遊びの天才でも在る壮太と一緒に過ごすのは、とても楽しい。でも、2人で居られるのは、後少しだ。(「夏の体温」)
・容姿にコンプレックスを抱く、内向的な大学生の大原早智(おおはら さち)。だが、大学1年生の時に発表した小説が文学賞を受賞し、俄に注目を集める。そして3作目。執筆に苦戦し、其れ迄の作風とは異なった、「悪人」を主人公にした小説に挑む。其のモデルに選んだのが、腹黒いと周りから言われている男子学生、倉橋ゆずる(くらはし ゆずる)だった。早智が取材を進めて行くと・・・。(「魅惑の極悪人ファイル」)
・父親の仕事の都合により、小学校で2回、そして今回は中学入学のタイミングで3回目の転校を余儀無くされた宮下明生(みやした あきお)。中学校生活が始まって3週間、新たな生活環境の下、明生には友達と言える存在が出来ないで居た。(「花曇りの向こう」)
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瀬尾まいこさんの小説「夏の体温」は、2つの短編小説と1つの掌編小説(「花曇りの向こう」がそうで、イラストの頁を除くと、僅か7ページだけ。)から構成されている。
瀬尾さんの小説を読んだのは、第16回(2019年)本屋大賞を受賞した「そして、バトンは渡された」が最初。其れ迄彼女の存在は全く知らなかったので、「デビューから、そんなに経っていない作家。」と思い込んでいたのだが、今年でデビューから20年が経つヴェテラン作家で在った。
今回の3作品の内、最後の「花曇りの向こう」は、中学1年生の国語教科書に掲載された作品とか。非常に在り来たりな内容で、評価する気にもなれない。
「魅惑の極悪人ファイル」は、「何事も多面的な面を持っており、其れは人間も例外では無い。見る人によって悪く見えたり、逆良く見えたりもする。又、本人自身も自分の事を悪く思ったり、良く思ったりもする。」というのを表した内容。此の作品の評価は、星3つといった所か。
で、表題作でも在る「夏の体温」は、治療困難な病気で入院する子供達を描いた作品。検査で2泊3日の入院生活を送る子供も居れば、瑛介の様に経過観察で1ヶ月以上も入院する子供も居る。
退院出来るのが何時になのかも判らない儘、入院生活を続けなければいけない事から、苛々が募る瑛介。其の事から、最初は意地悪な気持ちになったり、人から同情を集める様な言動をしたりしていたが、そういった事にも飽きてしまった頃、同学年の壮太が検査入院して来る。低身長検査で入院して来る子が多い此の病院では、自分よりも遥かに幼い子許りだったので、同学年の子が入院する事に喜ぶ瑛介。低身長になる病を罹患する壮太だが、そんな状況を感じさせない陽気さは、瑛介の気持ちを変えて行く。そして、3日が経ち、大好きな壮太は退院して行き・・・というストーリー。
手術や交通事故で数日の入院経験は在るけれど、長期入院の経験は無い自分。自由の無い入院生活なんてウンザリだし、そういう生活が何時終わるのかも判らない状況なんて、考えただけでも嫌になる。だから、「苛々から意地悪な気持ちになったり、人から同情を集める様な言動に出る瑛介。」というのが理解出来るし、又、「そういう事をしてしまう自分が嫌になってしまう瑛介。」というのも理解出来る。
3日間の入院生活を終え、退院した壮太から瑛介に届いた手紙。手紙の内容も然る事乍ら、同封されていた“意外過ぎる物”に心が動かされてしまった。「此の後、瑛介と壮太が“一生の友人”に成ると良いな。」と思ってしまう。
総合評価は、星3つとする。