「原作を映像化した作品は幾つか見ているのに、其の人の作品は余り読んでいない。」というのが、重松清氏だ。映像化された作品で見たのは「流星ワゴン」、「きよしこ」、「とんび」、そして「あすなろ三三七拍子」の4作品。何れも良い作品で、「流星ワゴン」のTVドラマは2度見たし、「とんび」に関してはTVドラマ化されたNHK版&TBS版を其れ其れ見た。
又、重松作品で原作を読んだのは「カシオペアの丘で」、「一人っ子同盟」、「ひこばえ」、そして「かぞえきれない星の、その次の星」の4作品。重松作品に魅了される最大の要因は、何と言っても“懐かしさ”に在る。1963年生まれの重松氏は、自分と同年代という事も在り、昭和40年~昭和50年代の時代を舞台にした作品が少なく無く、読んでいて“自分の幼少期の光景”がまざまざと蘇って来るのだ。もっと言ってしまえば、当時の匂い(決して衛生的では無かったので、溝川や放置された生塵の匂いとか。)や当時の音(豆腐売りの喇叭の音とか下校を促す「夕焼け小焼けのチャイム」等。)迄もが、鼻や耳の“記憶”を擽る。“親子の情愛”を描いた作品では、ついつい涙してしまう事も。
************************************************昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。運送業者で働く“ヤス”事、市川安男(阿部寛氏)は、今日も元気にオート三輪を暴走させていた。愛妻・美佐子(麻生久美子さん)の妊娠に嬉しさを隠せず、姉貴分のたえ子(薬師丸ひろ子さん)や幼馴染みの照雲(安田顕氏)に茶化される日々。
幼い頃に両親と離別したヤスにとって、家庭を築けるという事は、此の上無い幸せだった。遂に息子・旭(北村匠海氏)が誕生し、「鳶が鷹を生んだ。」と皆、口々に騒ぎ立てた。
然し、漸く手に入れた幸せは、妻の事故死で、無残にも打ち砕かれてしまう。こうして、父子2人きりの生活が始まる。母の死を理解出来ない旭に、自分を責めるヤス。
和尚の海雲(麿赤兒氏)は、旭に「皆が、母親代わりなってやる。」と説き、「雪が降っても黙って呑み込む広い海の様に、旭に悲しみを降り積もらすな。御前は海になれ。」と、ヤスに叱咤激励するので在った。
親の愛を知らずして父になったヤスは、仲間達に助けられ乍ら、我が子の幸せだけを願い、不器用にも愛し、育て続けた。
そんな或る日、誰も語ろうとしない母の死の真相を知りたがる旭に、ヤスは大きな嘘を吐いた・・・。
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映画「とんび」を観て来た。上記した様に、此の作品は原作を読んでいないものの、TVドラマ化されたNHK版(2012年)もTBS版(2103年)も共に見ているので、今回で映像版を観るのは3度目になる。
「美佐子が事故死したのは、幼い旭の所為だった。」という事実を安男のみならず、周りの人間は直隠す。アクシデントだったとはいえ、「自分の所為で母親が亡くなった。」という事実を旭に知らせるのは、余りにも残酷な事だったから。事故当時の記憶が全く無く、事故の真相を知りたがる旭。母の居ない現実に悲しみを重ねて行った旭に、安男は「父さんを守ろうとして、母さんは身代わりになって死んでしまった。」という嘘を吐く。2人暮らしになって以降、微妙な関係になって行った父子だったが、安男の嘘によって大きな溝が出来てしまう。
親の愛情を知らない儘、父親となった安男。母の記憶が全く無く、「其の母が亡くなったのは、父親の所為だ。」と複雑な感情を持つ旭。共に“父親に対する複雑な感情を持った2人”だが、安男はずっと消息不明だった父親と、彼の死の間際に再開出来た事で、心境が大きく変わる。そして、旭も・・・。
「とんび」を観るのは3度目だが、毎回涙してしまった。唯、今回の映画も決して悪い出来では無いが、個人的には「安男を内野聖陽氏、旭を佐藤健氏が演じたTBS版のドラマが一番好き。」だ。
又、どうでも良い事だが、和尚の海雲を演じた麿赤兒氏の顔が、村田英雄大先生に見えて仕方無かった。
総合評価は、星3.5個とする。