*********************************
18世紀のロンドン。外科医ダニエル・バートンの解剖教室から、在る筈の無い屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子達に、治安判事ジョン・フィールヒングは捜査協力を要請する。
だが背後には、詩人志望の少年ネイサン・カレンの辿った稀覯本を巡る恐るべき運命が・・・。解剖学が先端科学で在ると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子達が時に可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む。
*********************************
「2012年版このミステリーがすごい!(国内編)」 、「2011週刊文春ミステリーベスト10(国内編)」、そして「2012本格ミステリ・ベスト10(国内編)」と、昨年の3つミステリー・ランキングでは何れも3位となった作品が、直木賞作家でも在る皆川博子さんの「開かせていただき光栄です -DILATED TO MEET YOU-」。此の変わったタイトルの小説は冒頭の梗概で記した様に、18世紀に於ける「解剖学」の世界を題材にしている。「DELIGHTED TO MEET YOU(御目にかかれて光栄です。)」という表現が在るが、解剖だけに「DILATED TO MEET YOU(【御腹を】開かせて戴き光栄です。)」と捩った訳だ。
名探偵シャーロック・ホームズがロンドンで活躍したのは、19世紀末から20世紀頭に掛けてという設定。此の小説は、其れよりも約100年前の時代を描いている。日本で言えば、江戸時代中期に当該。内科医の社会的地位は高いが、元々は床屋が兼業していたという外科医は数段低く見られていたと言う。特に屍体を扱う解剖学は、侮蔑の対象だった様だ。
18世紀のロンドンの世情がリアルに描かれており、時空を超えて其の雰囲気に浸れる作風。唯、登場人物が外国人許りなので、片仮名表記の名前が実に覚え辛く、何度も何度も巻頭の「登場人物一覧」で、各々のプロフィールを確認しなければならなかった。名前がごっちゃになってしまう事で、人と人の関係性にも混乱を来し、読み進めるのに難儀な面も。
ストーリー自体は面白いし、伏線の張り方もヴェテラン作家の腕を感じる。どんでん返しも悪くは無い。唯、上記した読み進め難さが、どうしても自分には引っ掛かってしまう。此の減点ポイントを勘案すると、一般的な高評価に対して、我が評価は下げざるを得ない。総合評価は星3.5個とする。