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「死んだら直ぐに、遺体を解剖して欲しい。」。医師の水城千早(みずき ちはや)が、父・穣(みのる)の遺言に従い遺体を解剖すると、彼の胃の内壁に“焼き付けられた謎の文字列”が見付かった。
28年前、連続殺人事件の犯人を追う為、父が警察を辞めた事を知った千早は、病理医の友人・刀袮紫織(とうや しおり)と協力して、胃に刻まれた暗号を読み解こうとする。
時を同じくして、28年前の事件と酷似した殺人事件が発生。現在と過去で絡み合う謎を、千早と紫織の医師コンビが解き明かして行く。
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現役の医師でも在る小説家・知念実希人氏の小説「傷痕のメッセージ」を読了。「子供の頃より父・穣と話す事は少なかった千早だが、高校2年の時に母が病気で亡くなると、関係が疎遠になってしまった。軈て医師となった彼女は、関係を修復出来ない儘、穣の死を迎えるが、彼は『死んだら直ぐに、遺体を解剖して欲しい。』という遺言を弁護士に託していた。不承不承乍らも解剖を許可した千早だが、穣の胃の内壁には“焼き付けられた謎の文字列”が見付かる。」という、実にエキセントリックな展開に、読み手は一気に引き込まれる事だろう。
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病理解剖の目的は、解剖によって疾患の詳細や、治療がどのような効果を上げていたかを明らかにすることにある。それによって得られた情報は、今後の医療の発達への糧となる。そのため、医学の発展に寄与することを求められる大学病院では、患者の遺族に対して積極的に病理解剖を要請してきたという歴史があった。
しかし、時代は変わった。CT、MRI、超音波検査をはじめとする画像診断の急速な発達により病理解剖の重要性は低くなってきた。
家族を喪って深い哀しみにひたっている遺族に対し、解剖を提案するのは簡単なことではない。病理解剖の重要性が低くなってきている現状では、なおさらだ。そのため、近年はルーティーンワークとして、希望すれば病理解剖ができることを遺族にさらりと説明するにとどまっている。主治医が病理解剖をしっかりと要請するのは、極めて珍しい疾患によって患者が死亡し、解剖により今後その疾患に対する治療の進歩が見込める場合ぐらいだ。
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28年前、連続して4人の女児が攫われ、死体として発見される。そして、5人目の女児が行方不明になるも、見付からない儘に事件は迷宮入りする。誘拐現場と死体遺棄現場に、共に“文字が書き込まれた折り紙”が置かれていた事から、“千羽鶴”と呼ばれる様になった犯人。「其れ迄の4人とは異なり、何故5人目の女児は行方不明の儘だったのか?」というのが謎の1つだけれど、此の理由に付いては、早い段階で察しが付いた。又、最後の見舞いで穣が千早に言った“謎の言葉”の真意も、同様に早い段階で察しが。
唯、“真犯人”に付いては、完全に読み間違えた。「女性許りが狙われて来た。」という点から、“思い込み”で別の人間を真犯人と予想したからだ。「此の人は、真犯人じゃ無いな。」と候補から外した人物が、実は真犯人で、又、動機も予想してたのとは異なっていた事から、意外性は非常に在った。暗号の解き明かしも面白いし、上記の“早い段階で察しが付いた事柄”が無ければ、もっと高い評価が出来たのだけれど・・・。
総合評価は、星4つとする。