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日向由衣(ひなた ゆい)は、裁判官に任官して3年目。念願が叶って、志波地方裁判所の刑事部に配属された。然し、異動が決まった直後から、直近の先輩と成る紀伊真言(きい まこと)裁判官に纏わる様々な噂が耳に入っていた。然も、其の殆どが悪評で在る。
「紀伊は、理系大学院出身の変わり種だが、プログラムを組む様に淡々と裁判を進め、バグを処理する様に有罪判決を宣告する。」と言われている。そして、もう1つの噂として、紀伊は「被告人の嘘が見抜ける。」と言うのだ。裁判所という場で、こんな非科学的な噂が、何処から生まれて来るのか?
又、志波地裁に赴任した由衣は、上司と成る阿古昌高(あこ まさたか)部長から、1つの課題を出されていた。「紀伊真言が、嘘を見抜けるか見抜け。」と。
赴任した許りの判事補には、仕事が無い。其れならば紀伊の裁判を傍聴して、部長の"課題"に答えるしか無い。斯くして由衣は、紀伊が訴訟指揮をする、窃盗事件の第1回公判に臨む。
志波市内で連続して起こる特殊詐欺事件。一見して無関係の事実を結び付けて、新たな事実を炙り出す裁判官。新任判事補の成長。裁判所の「中の人」から、犯罪はどう見えているのか?
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第62回(2020年)メフィスト賞を小説「法廷遊戯」(総合評価:星4つ)で受賞した五十嵐律人氏は、現役の弁護士でも在る。文壇デビュー以来、此れ迄に8冊の小説を上梓して来た彼だが、今回読んだ9冊目の「嘘か真言か」も、弁護士ならではの"法曹界"を描いた作品。大学時代、法学を専攻した人間なので、此の手の作品は非常に興味が在る。
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司法修習を終えた者の中から、本人の希望や資質を勘案して、毎年数十名が判事補に任命される。見習い裁判官とも呼ばれる判事補は、一部の例外を除いて、単独で事件を受け持つことができない。任官してから5年程度の経験を積むと、特例判事補としてベテランの判事と同じように法廷に立つことが認められる。
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個人的には、生成AIを扱った「夢か現実か」という作品が面白かった。「今は"100%"で無いにしても、将来的には"人間が今行っている業務の大部分"を奪うのではないか?」と指摘されている生成AI。所謂"知的業務"も例外では無く、著述業務や裁判業務も生成AIがメインで行い、人間が携われるとしたら、「最後のチェック位ではないか?」という話も。そんな未来が予想される状況なので、此の作品には考えさせられた。
5つの短編小説から構成されており、其れ其れが同じ「オール読物」に掲載されて来たものの、最初の作品と最後の作品とでは、掲載時期に約2年の開きが在る。なので、一見関連性が無さそうにも思えるのだけれど、実は密接にリンクしている。登場人物達の意外な関係性を含め、「伏線の敷き方が上手いなあ。」と感心。
唯、紀伊が嘘を見抜ける理由というのが、「判った様で、良く判らない。」というのも事実で、其の辺はモヤモヤが残った。
総合評価は、星3.5個とする。