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町のシンボル、大きな時計が目印の時世堂百貨店の隣に立つ一軒の家。其の家で、箱村和江(はこむら かずえ)は抗癌剤治療に苦しむ、40年連れ添った夫・新造(しんぞう)を介護している。或る日、夫の勧めで、気分転換に写生教室に出掛ける事になり、孫娘のさつきに留守番を頼む事に。其の日だけの積りだったのだが、何故かさつきは其の儘居座ってしまい・・・。
和江の家が建つ前は時世堂の物置き、其の前は製鞄工場、更に其の前は中古タイヤの倉庫。様々に変わり行く風景の中で、唯一変わらなかった百貨店。其の前で、繰り広げられてきた時に哀しく、時に愛しい事件とは?
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長岡弘樹氏の小説「時が見下ろす町」は、8つの短編小説から構成されている。大きな時計がシンボルの時世堂百貨店が在る町を舞台にし、描かれているのは其処で生活する人々の姿。
読み進めて行く内に、同姓同名の人物が登場し、少々頭が混乱。全く独立した作品と思いきや、そうでは無かった訳だが、設定されている時代が結構な過去だったり、又は疑問に感じる設定(「過去に殺されていた人間が、何故、未来で生きているの?」等。)が在ったりして、混乱を生じさせるのだ。後から、其の混乱は解決するけれど。
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「さっちゃんは、心の状態が動きに出るタイプだよね。」。「そんなことないよ。」。「じゃあサイコロを振ってみて。」。さつきが振ったあと、わたしは指摘してやった。「いま力をこめて遠くへ振ったでしょ。」。「・・・うん。」。「それは大きな数がほしいと思ったからだよ。反対に、小さな数がほしいと思ったときは、力をこめないでポロリと手元に落とすようにしている。さっきからね。」。
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「へーっ。」と思わせるトリヴィアが幾つか記されていて、其れは其れで面白い。でも、全体で言えば“消化不良”の感は否めない。「1人1人のキャラクターが、余り深く描かれていない様に感じる。」事に加え、矢張り判り難かったり、疑問に感じる記述が散見されたのが原因。
総合評価は、星3つとする。