ミステリー関連の年間ブック・ランキングで、自分が注目しているのは「本格ミステリ・ベスト10」(発行元:原書房)、「週刊文春ミステリーベスト10」(発行元:文藝春秋)、そして「このミステリーがすごい!」(発行元:宝島社)の3つ。で、「2020週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」及び「このミステリーがすごい! 2021年版【国内偏】」では1位、そして「2021本格ミステリ・ベスト10【国内偏】」では4位を獲得したのが「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」。
此の作品の著者は辻真先氏で、推理作家としてだけでは無く、アニメ&特撮脚本家としてのキャリアも非常に長い人物。1960年代初めから脚本家として活躍されており、此方を見れば御判りの様に、担当された作品は有名な物許り。今年で89歳を迎えたというのにバリバリの現役で、尚且つ「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」で高い評価を受けたというのは、本当に凄い事だ。
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昭和12年、銀座で似顔絵描きをし乍ら、漫画家への夢へ邁進している那珂一兵(なか いっぺい)の下を、帝国新報の女性記者・降旗瑠璃子(ふるはた るりこ)が訪ねて来る。「5月末迄開催中の『名古屋汎太平洋平和博覧会』の取材に同行して、挿絵を描いて欲しい。」と言うのだ。
華やかな博覧会の最中、一行が巻き込まれた殺人事件。名古屋に居た筈の女性の足が、遠く離れた銀座で発見された。名古屋、東京間に仕掛けられた一大トリックに、那珂少年はどんな推理を巡らせるのか?
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今回読んだ「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」(著者:辻真先氏)は、「<昭和ミステリ>シリーズ」の第1弾で在る。「昭和を舞台にし、那珂一兵が探偵役として登場する。」という此のシリーズ、 第2弾が上記した「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」で在り、舞台は其れから12年遡った昭和12年。此の年に日中戦争が始まり、軈て日本は泥沼の太平洋戦争へと突入して行く。
「たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説」の主人公・風早勝利(かざはや かつとし)は「名古屋市内の新制高校3年生」という設定だった。「辻真先氏は、昭和7年に愛知県で生まれた。」ので、「勝利は辻氏自身と言っても良く、描かれている世界は、彼が過ごして来た時代でも在る。」と言って良いだろう。
一方、「深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説」の主人公・那珂一兵は今で言えば中学生と思われ、当時5歳だった辻氏より年上。流石に此の頃の習俗をリアルに覚えているとは思えず、文献等に当たって当時の雰囲気を書いたのだろう。
時代の違いは在るにせよ、瑠璃子の言葉遣いに違和感が在る。「~してネ。」、「~も行くのヨ。」、「~でショ。」等、会話の最後に“片仮名”が矢鱈使われているので。当時の先進的な女性が、こういう言葉遣いを好んでしていたのか、将又、辻氏の好みなのか判らないが、彼女の言葉遣いに“不自然さ”を感じてしまい、其の度に意識がストーリーから離れてしまった。
「銀座で、切り落とされた女性の足が2本見付かった。」という猟奇的な殺人は、江戸川乱歩氏の世界を彷彿させる。又、「奇妙な構造の館にグロテスクな展示の数々。」というのも、矢張り同様だ。乱歩作品が好きな自分としては、そそられる設定で在る。
でも、肝心なストーリーが駄目。「そんな事で、あんな猟奇的な殺人を行うかなあ?」という動機の非現実さも然る事乍ら、最も駄目なのは“犯行を決定付けた証拠品”。「こんな証拠品で、犯行を決定付けたの?唯一無二の証拠品とはとても言えないし、犯人だって幾らでも言い逃れが出来そうなのに。」という疑問が強く残った。又、「幾ら自分達が“動いていた”とはいえ、あんなにも大掛かりな仕掛けが“動いていた”事に、全く気付かないものかなあ?」という疑問も。
総合評価は、星3つとする。