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「貴方の御先祖様を調査致します。」。
邑楽風子(おうら ふうこ)は、5歳の時に母と生き別れてから20年以上、野良猫の様に暮らして来た。東京は谷中銀座の路地裏で、「依頼人の先祖を調べる。」という“先祖探偵”を生業としている。
「曾祖父を捜して下さい。」、「先祖の霊の祟りかも知れないので、調べて。」等々、様々な先祖の調査依頼が舞い込む。宮崎、岩手、沖縄・・・調査に赴いた旅先で美味しい料理を楽しみ乍ら、マイペースで仕事をしている風子。「名前等全てを忘れてしまった自分の母を、何時か捜し出したい。」と思い乍ら・・・。
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小説「元彼の遺言状」(総合評価:星2.5個)で第19回(2020年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の大賞を受賞して以降、次々とヒット作を生み出している新川帆立さん。「ミステリー作家で在り、弁護士でも在る。」というのも然る事乍ら、元プロ雀士という経歴も在るのだから実に興味深い人物。
そんな彼女が著した「先祖探偵」は、「依頼人の希望に沿って、其の先祖を調査する。」という“先祖探偵”の邑楽風子が主人公。5つの短編小説から構成されており、各話で謎を解いて行く訳だが、各話の最後に“風子の母を探る手掛かり”が提示され、全体として「風子の先祖捜し」という面も在る。
7年前の記事「御互いが羨ましがっていた」で書いた様に、「馬齢を重ねると、自身の先祖に付いて興味が出て来るという人。」は結構多く、そういう意味で“先祖探偵”というのを主人公に据えた着眼点は良い。
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・「(前略)まずは戸籍を取って、戸籍でたどれるところまで、たどっていきます。一番古くて、明治19年式の戸籍まで取れるので、(後略)」。
・不動産登記では過去50年ほどしか遡れない。だが旧土地台帳を取り寄せると、明治初期のころからの土地の所有者の変遷をたどることができる。
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「戸籍」という物に付いて、色々考えさせられる作品だ。又、「棄民」というのは知っていたけれど、「棄児」という言葉は初めて知った。何方も“社会から見捨てられた存在”という点では一緒。「棄民」と「棄児」というのが、此の作品では重要ポイントとなっている。
若竹七海さんの「葉村晶シリーズ」に、何処と無くテーストが似ている。「蓮っ葉さを感じさせる女主人公が、物凄い暴力を受ける。」、「モヤモヤとした感じが残る、すっきりしない終わり方。」等が、そう感じさせるのだろう。
総合評価は、星3.5個とする。