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放射線科医・石原祥子の下に搬送されて来た心筋梗塞の患者は、嘗ての恋人・羽根田医師の妻・緑だった。だが冠動脈に詰まった血栓の除去手術中、透視画像に映り込んだのは、血流に逆行して移動する不気味な影。羽根田医師の強硬な主張により、其の正体を解明すべく試験稼働中の血管撮影機器「アシモフ」が投入される事になった。其れは挿入したカテーテルからナノ単位のビームを照射し、血管内をリアル・タイムに撮影する世界初の装置だった。「アシモフ」のゴーグルを装着し、血管内世界を体感して行く祥子。軈て彼女の眼前に現われたのは、ミサイルの如き形状とプロペラの様な鞭毛を備えた謎の物体で在った・・・。
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第3回(2004年)「『このミステリーがすごい!』大賞」の最終審査に残るも、受賞するには到らなかった作品「血液魚雷」(著者:町井登志夫氏)。「B級では在るが、アイデア賞を与えても良い程に魅力的な作品。」と選考委員から評された此の作品は、2005年に早川書房から刊行された。後書きで町井氏が書いている様に、彼が愛するSF映画「ミクロの決死圏」のオマージュとして著した作品。
「ミクロの決死圏」は1966年に制作された名作だが、1948年に手塚治虫氏が発表した作品「吸血魔団」がモデルになっている(ぱくられた)というのは結構有名な話。「ミクロの決死圏」は自分も好きな作品なので、「血液魚雷」にどう反映されているのか興味を持ちつつ読み進める事に。
医学部卒(町井氏は教育学部卒。)でも無く、医療現場に従事している訳でも無いというのに、医療に関する描写が素晴らしい。入念に調べ上げた賜物なのだろう。又、「患者の体内に蠢く謎の物体が何なのか?」や「どうやって人体に入り込んだのか?」が気になるし、「謎の物体と医師との闘い」にも引き込まれる。
唯、残念なのは「登場人物達に魅力を感じ得ない。」事に加え、「中盤迄はぐいぐい引き込む内容だったのに、結末が余りに呆気無かった。」事。「中途半端な結末だなあ。」という感は否めない。
総合評価は星3つ。