70代の知人と以前飲んでいた時、彼が話した事が忘れられない。彼の亡き母親は、若い頃より耳の聞こえが余り良く無かった。彼と話している時に聞き直す事が結構在り、苛っとした彼が「ちゃんと聞いてくれよ!!」と怒鳴り返す事が在ったと言う。彼が長じてから、兄弟より「御前から怒鳴られたって、母さん泣いていた事が在ったんだぞ。『本当に聞き取らないから、聞き返したのに・・・。』とな。」と言われ、「悪い事をしたなあ。」と思ったと言うが、「其の母親も亡くなり、自分自身が高齢者となった時、耳の聞こえが悪くなった事で、一層母親への申し訳無さが増して来た。」と、彼は涙を浮かべて話していた。
学生の頃、ラジオ番組を好んで聞いており、好きだった番組の1つが「ビートたけしのオールナイトニッポン」だった。当時のビートたけし氏は30代半ばだったが、「最近さあ、小便の切れが悪くて、パンツ濡らす事が在るんだよなあ。」とか「酒飲み過ぎて、気付いたらウンコ漏らしている事が在ってさあ。」という話を良くしていた。「高齢者じゃ無いんだし、小便の切れが悪くなったり、ウンコ漏らすなんて事無いだろ。」と当時の自分は笑っていたのだが・・・。
結構昔の話になるが、小高い山を登っていた際、急にウンコをしたくなった。登り始めてそんなに経っていなかったので、登山口に在ったトイレに戻ろうと下山したのだが、必死で我慢していたものの、途中で少し漏らしてしまった。40代の頃の話だ。「良い年をした自分が、其れも高齢者には程遠い年齢でウンコを漏らしてしまうなんて・・・。」と恥ずかしくてならなかったが、同時に思い出したのはビートたけし氏の話だった。
何年か前から、小便の切れが悪くなった。小便した後に、ぴっぴっと“尿切り”をするのだけれど、後からじわーっと漏れて来て、パンツを少し濡らす事も在ったりする。頻度としてはそうは無いのだけれど、パンツに濡れを感じると、「高齢者じゃ無いのに・・・。」と思い、そしてビートたけし氏の話を思い出す。
老いるというのは、「未知なる事を知る。」という事だと思う。若い頃には考えもしなかった事、気付きもしなかった事、知らなかった事等を、老いて初めて知る。幸いにして記憶や体力に衰えを感じはしないが、確実に衰えを感じる部分は在ったりする。今後、次々と未知なる事を知って行く事になるのだろう。