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徳川家康の手により戦乱の世は幕を幕を閉ざされ、時代は4代将軍・徳川家綱が統治する「戦無き世」を迎えていた。そんな時代に或る巨大なプロジェクトが動き出そうとしていた。中世の世に中国から日本に伝わり、以後8百年以上に亘って「唯一無二的に正しい。」と信じて疑われていなかった暦法「宣明暦」を誤りとして、日本独自の太陰暦を作り上げ様とするプロジェクト。その中心に居たのは、後に「大和暦(貞享暦)」を完成させる事になる渋川春海だった。
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第31回(2010年)吉川英治文学新人賞、第7回(2010年)本屋大賞、そして第7回(2010年)北東文芸賞を受賞し、第143回(2010年上半期)直木賞の候補作ともなった冲方丁(うぶかた・とう)氏の時代小説「天地明察」。どの書店でも目立つ所に山積みされ、売れに売れている作品なので、御存知無い方は少ない事だろう。斯く言う自分もこの作品の存在は可成り前から知っていたし、「非常に読み応えの在る作品。」という世評はしばしば見聞していた。でも4つの漢字だけで構成された「天地明察」というタイトルが妙に堅苦しく感じられ、読む事に尻込みするまま時を経ていたのだが・・・。
徳川将軍家への碁の指南役として登城を許されていた「碁打ち衆」は安井家、本因坊家、井上家、そして林家の4家。渋川春海は安井家1世・安井算哲の子として生まれ、2世安井算哲として碁の指南を行うも、算術や天文学への関心が日々増して行く。様々な出遭いが在って、彼は日本各地の緯度を計測する役回りを仰せ付かり、やがて冒頭で記した巨大プロジェクトを任される事に。
作者の冲方氏は16歳の時に日本史の授業で渋川春海の事を知り、「どんなに挫折しても諦めず、夢を追い続ける彼の姿」に強い関心を持ったのだとか。自分も日本史は履修したし、日本史が大好きな事も在って、「渋川春海」なる人物の事は知っていたけれど、「暦の歴史を変えた人」という“軽い認識”しかなかった。今回此の作品を読破してみて「暦の歴史を変えるというのが、どれだけエポックメーキングな出来事で在り、それに従事した渋川春海が如何に魅力的な人生を送った人物なのか。」を知り、一般的な知名度は決して高くないこの人物を敢えて取り上げた冲方氏の着眼点の素晴らしさに、唯唸るばかりだ。
*********************************「北極星は、いわば天元だ。天でただ一つの不動の星で、人が星を読む上で、最も大きな手掛かりになる。別名を北辰大帝。天帝化現たる星で、“天皇陛下”とは、本来、この星に仕え、天意を賜り、地の民に告げることを意味する言葉だ。」
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