*********************************
1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ、米・ソ・英・仏の4ヶ国統治下に置かれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつ在る状況下で、ドイツ人少女アウグステ・ニッケルの恩人に当たる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により、不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。然し、何故か陽気な泥棒ファイビッシュ・カフカを道連れにする羽目になり・・・2人は其れ其れの思惑を胸に、荒廃した街を歩き始める。
*********************************
「2018週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の3位、そして「このミステリーがすごい!2019年版【国内編】」では2位に選ばれた小説「ベルリンは晴れているか」(著者:深緑野分さん)。深緑さんの作品「戦場のコックたち」は「2015週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」で3位、そして「このミステリーがすごい!2016年版【国内編】」で2位に選ばれ、自分は総合評価「星4つ」を付けたが、今回の「ベルリンは晴れているか」も同様に、第二次世界大戦時のヨーロッパを舞台にしている。
「ベルリンは晴れているか」がヨーロッパを舞台にしていると書いたが、厳密に言えば其の舞台はナチス・ドイツ。アドルフ・ヒトラーの台頭から彼の死を経て、ナチス・ドイツの敗戦直後を描いている。
「戦場のコックたち」でも感じた事だが、当時の時代の雰囲気がリアルに伝わって来る描写力の高さは凄い!恰も自分が、其の現場に居合わせている様な感じがする程。
残念なのは、肝心の謎解き部分。「真犯人は誰なのか?又、動機は何なのか?」という点に関しては、ミステリーを読み込んでいる人ならば、結構容易に辿り着けるのではないだろうか。又、真犯人が犯行に到った動機は、弱さが在るものの、未だ判らないでは無いが、或る人物がアウグステに関わった動機に関しては、「うーん・・・。」と理解出来ない部分が。
ネット上の書評を見ると、「何故、今、此のテーマを選んだのだろうか?」という疑問を少なからず見掛けた。其の疑問に対する個人的な考えを記すならば、「今だから、此のテーマを選んだのではないだろうか」と。「ナチス・ドイツの時代と、今の世界の雰囲気が似て来ているからこそ、此のテーマを選んだ。」という気がするのだ。
「先行きが見えず、多く人が不安と鬱屈した思いを抱える時代。極右勢力がそういった風潮を悪用し、作り上げた“仮想敵”を激しく“攻撃”する事で人々の注目を集め、台頭して行く。極右勢力の台頭に不安を感じる人達も居たが、其の多くは『危険では在るが、大した存在にはならないだろうから大丈夫。』という“根拠の無い思い”を持っていたが、極右勢力は次々に“敵”を排除して行き、気付いた時には反対の声を上げられない状態になっていた。」というのがナチス・ドイツの成り立ち(独裁国家というのは、こういう形を進むもの。)で、現在、世界的にそういう萌芽が見て取れる。
「歴史は繰り返す。だから、歴史から“悪しき事”を読み取り、同じ事を繰り返さない様にしなければいけない。」という思いを、深緑さんは此の作品に込めたのではないだろうか。
読み応えは在るのだが、全体的に冗長さは否めない。後半部を中心に、もっとスッキリ纏めた方が良いのではないか。
総合評価は、星3.5個とする。