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32人が流れ着いた太平洋の果ての島に、女は清子一人だけ。何時迄待っても、助けの船は来ず、何時しか皆は島を「トウキョウ島」と呼ぶ様になる。果たして、此処は地獄か、楽園か?何時か脱出出来るのか。
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戦争の余韻が未だ残る1950年代、「アナタハンの女王事件」というのが世の耳目を惹いた。1945年から1950年にかけて太平洋の孤島「アナタハン島」で起こったこの事件は、1人の女性を巡って32人の男性(内、31人はこの島に漂着した軍関係の日本人。その殆どが20歳前後だったとか。)が殺し合いをしたというもの。この事件が報道されて以降、我が国では一件を題材が映画化される等の「アナタハン・ブーム」が起こり、救出された当該女性は好奇の目に晒され続けたと言う。冒頭に記した梗概は桐野夏生さんの小説「東京島」で、この「アナタハンの女王事件」をモチーフにしたものと思われる。
47歳で早期退職した夫・隆の意向で、嫌々乍らクルーザーでの世界一周の旅に出た清子。しかし船は大破し、南海の無人島に流されてしまう。それ以降、その島には31人の男達が漂着する。23人の日本人と8人の中国人で、彼等の殆どは20代の若者だった。40代の清子は彼等にとって母親程の年齢と言えたが、島唯一の女性という事でやがて「性の対象」となって行く。夫の隆が怪死を遂げた後、清子の“夫”となった者も不審な死を遂げる事に。残った者達は籤引きで夫の座を争い、そして5年の月日が流れる。
「隔絶された空間に於いて唯一の女性」という事で、女王の如くもて囃される清子。自分の希少価値を計算高くアピールし、時には傍若無人に振る舞う彼女だったが、一寸した事でその価値が失われそうになったりする。それは「他の人間の価値」も同様で、「価値そのものの不安定さ」というのを痛感させられる。
又、「人間の三大欲」として「食欲」、「睡眠欲」、「性欲」が挙げられるけれど、一般社会の縛りの無い、そして極限状態の人間達が集まる孤島では、性欲が大きな力を持つのは「アナタハンの女王事件」からも否定出来ないだろう。
人間の本性が剥き出しにされたこの作品、興味深い内容では在るけれど、同時に登場人物達の「仮名」等が原因で、読み難くも在った。最後の“落ち”も今一つだったし。
総合評価は、星2.5個。