ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「贖罪」

2009年08月12日 | 書籍関連
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取り柄と言えるのは「日本一綺麗」とされる空気だけで、夕方6時には「グリーンスリーブス」()のメロディが街中を流れる。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい「美少女殺害事件」。殺害された少女と事件直前迄一緒だった4人の少女達は、犯人と目される男と会話したにも拘わらず、全員がその顔を思い出せなかった。そんな彼女達に被害者の母親が投げ付けた激情の言葉が、その後の彼女達の運命を大きく狂わせて行く事になる。
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昨夏刊行された処女作告白」が高い評価を受け、一躍人気作家の仲間入りを果たした湊かなえさん。今年初めには二作目の「少女」が、そして2ヵ月前に三作目の「贖罪」が刊行された。冒頭に記したのは、「贖罪」の梗概で在る。

「贖罪」とは、「金品を出したり、善行を積んだりして、犯した罪を償う事。」という意味。直前迄一緒に遊んでいた友人を殺され、その事で彼女の母親から余りにも酷い言葉を浴びせられた4人の少女達。心に深い傷を負わされた彼女達は、本来歩むで在ったろう“道”から外れ、別の道を歩む事になる。それから約15年が経ち、殺人事件の時効が成立間近となった頃、4人それぞれに悲惨な出来事が降り掛かるのだが、それも全て端を発していたのが「彼女達が負わされるべきでは無かった贖罪意識」から。「フランス人形」、「PTA臨時総会」、「くまの兄妹」、そして「とつきとおか」という4つの章は、それぞれ4人の少女達の告白という形、即ちモノローグ形式でストーリーは展開されて行く。その次の章「償い」も“或る女性”のモノローグで、最終章の「終章」へと繋がる

強烈な体験がトラウマとなり、その後の人生に大きな影響を与えるというのは、結構在る事だろう。ましてや感受性の強い幼少期の体験ならば一層の事で、この小説に登場する4人の少女達の場合は「友人の死」と「友人の母から受けた酷い言葉」が或る種のトラウマとなり、彼女達を自縄自縛状態にして行く。彼女達が約15年後に直面した惨事は余りに極端な例だろうが、トラウマに縛られた者が悲惨な方向へと導かれてしまうケースは少なからず在りそうな気がする。

ストーリー的に面白さは感じるが、これ迄刊行された“湊作品”全てが似たテーストというのが残念。どれもモノローグ形式で、尚且つ御都合主義的な展開が見受けられるからだ。才能溢れる作家と思うからこそ厳しい事を書かせて貰うが、それ迄とは全く毛色の異なる作品を“開拓”して行かないと、徐々に飽きられて行ってしまうだろう。読者は、常に新しい物を求めて行くから。

総合評価は星3つ

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2 コメント

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Unknown (マヌケ)
2009-08-15 23:16:59
贖罪という言葉はキリスト教学の時間によく出てきました。 他にもサクリファイスとか告白とか懺悔とか戒告とか。 休暇中に「きのうの神さま」という作品を読みました。 取材に基づいた様々な医師の姿が印象的でした。 医療業務に限定された多忙極まるオートメーション的な作業の連続。 それを日々、耐えて遂行するために一切の青臭さをかなぐり捨て、何の自己陶酔もなく、トラブル回避のためだけに覚えた柔らかい言葉を舌先三寸に使って、気づけば自分の診た患者に頭を下げて礼を言われても、ほとんど何の実感も感慨も持てなくなってしまった。 医師になりたい、と最初に思い立った遠い日の記憶など、いっそ忘れてしまいたい。 あの時の自分がいなければ今の自分もないが、今の自分は、あの時の自分がなろうとした男とはまるで違う。 けれど、それが悪いか。 青坊主の過去の自分に、非難などさせない。 俺は、来た球を打っている。 それも確実に、当てていっている。 流れに巻き込まれて一度青臭さを棄てた自分がいまさら青臭くなるはずはなく・・・お医者さん達の大変な現状が少しだけ垣間見ることができました。 
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>マヌケ様 (giants-55)
2009-08-16 01:46:32
書き込み有難う御座いました。

「理想」と「現実」のギャップに懊悩し、現実の方向に自分自身を擦り合わせて行くというのは、どんな職業でも在るでしょうね。特に「生き死にと常に対峙する可能性の在る職業」に従事している場合、「何処で自分自身を納得させるか。」というので悩む事は多そうな感じがします。
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