ジャイアンツは強過ぎるチームになるべきか？

「週刊ポスト（２月４日号）」に久米宏氏とイチロー選手の対談が載っていた。放送界と野球界という異なった世界に在りながら、共に頂点を極めた天才同士の丁丁発止の遣り取りは、なかなか読ませる内容だった。

入団３年目で年間２１０本のヒットを記録して首位打者のタイトルを獲得したイチロー選手。それから７年連続して同タイトルを獲得したのだが、彼曰く２１０本のヒットを打った事で翌年は心身共に浮付いてしまったシーズンだったのだとか。バッティング技術の面に於いても、浮付いた気持ちが影響して、ずっと迷い悩んだ１年だったとか。その発言に対して、久米氏が「技術も無かったのに、良く連続首位打者なんかになれましたよね。」と話を振ると、「何でしょうね。まあ、ピッチャーのレベルが高くなかったって事じゃないですか（笑）。」と答え、それを聞いた久米氏が「その言葉を聞いたら、当時のピッチャーは怒るでしょうね（笑）。」と続けると、「でも、それは現実ですから。」と言い切る彼に、一流の者が持つ確固たる信念とプライドを感じた。

マスメディアに対して、なかなか胸襟を開かないと言われている彼の本音が垣間見られ、興味深い対談だったが、中でも意外に感じた発言が在った。「巨人に付いてはどう思っていますか？」という久米氏の質問に対する彼の答えがそれだ。

「もっと補強して貰いたいです。ランディー・ジョンソンやロジャー・クレメンスだとか、凄い選手ばかりどんどん獲って、滅茶苦茶強いチームになって欲しい。巨人というのは、大好きな人と大嫌いな人が居る事が、大きな魅力だと思うんです。皆が好きになったらつまらない。もっと悪役を演じて欲しいですね。」

もっと悪役を演じて欲しいという前提が在るとはいえ、ジャイアンツは大補強をもっと行ない、強過ぎるチームになるべきという彼の考えは、個人的にかなり意外だった。

ジャイアンツ・ファンの自分は、所謂ジャイアンツが強過ぎてつまらないと言われたＶ９時代の記憶は殆ど無い。王選手がここぞという場面でホームランを打ちまくってくれた記憶は痛烈に焼き付いているが、チームとしてのジャイアンツは球界に於いては突出して強いチームではなく、戦績としては最早１２球団の内の１球団に過ぎない存在であった。強過ぎてつまらないと言われた時代を見てみたい気も無くはないが、それでは球界としてつまらないと思っている。１９８３以降、ライオンズとの日本シリーズ決戦では、３度連続で涙を飲まされたが、逆転に次ぐ逆転や、緊張感溢れるゲーム展開に一喜一憂させられ、負けた悔しさよりも野球の持つ面白みを充分堪能させられた。これがもし、ジャイアンツが圧倒的な戦力を持ち、一方的な展開になっていたら、今も記憶に残るゲームの数々に成り得ていないと思う。

強過ぎるチームになって欲しいと願うジャイアンツ・ファンも居なくはないだろうが、多くは自分の様に緊迫した試合展開が楽しめる、”程々の”戦力を望んでいるのではないだろうか。

イチロー選手の発言の裏には、強大な戦力を持つジャイアンツを打ち倒す事に喜びを感じた村山投手や江夏投手の様に、一流選手が持つ強い負けじ魂やプライドが在るとは思う。それでも、大補強が批判されて久しいジャイアンツに対して、アンチテーゼとも言えるイチロー選手の発言は特に興味深かった。

ジャイアンツ以外の１１球団の選手達や、彼等を応援するファンの本音の部分は、一体どうなのだろうか？と気になる所だ。