「流星の絆」

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
或る深夜、ペルセウス座流星群を見る為、両親に内緒で家を抜け出した功一と泰輔、そして静菜の幼い３兄弟。生憎の天候不良で流星を見る事が出来なかった彼等は、自宅で在り且つ両親が営む洋食店「アリアケ」に戻る。眠りこけた妹・静菜を背負った長男・功一が店内で目にしたのは、惨殺された両親の姿。３兄弟が不在の間の惨劇だった。次男・泰輔は店の裏口から出て行く男を目撃していたが、犯人特定は難航したまま時は流れる。

１４年後、ひっそりと肩寄せ合って来た３人は、功一と静奈が立て続け騙された事で、騙される側では無く、騙す側の人間として生きて行く決意を固める。功一の頭脳、泰輔の演技力、そして静奈の美貌を利用し、金を持った相手から結婚詐欺を働く彼等。「そろそろ潮時。」と詐欺行為から足を洗う事にした彼等が最後のターゲットに選んだ人物は、レストランチェーン「とがみ亭」の御曹司・戸神行成。功一の立てた作戦で、泰輔と静奈は行成に近付く。

ところが、行成の父・政行の顔を偶然見掛けた泰輔は凍り付いてしまう。あの夜に目撃した男だったからだ。そして静菜が口にした「とがみ亭」のハヤシライスの味は、それが看板メニューだった「アリアケ」、即ち父の味と全く同じ物。３兄弟は結婚詐欺で無く、両親の仇を討つ事を決意する。

しかし復讐の手段として行成に接近した静菜だったが、次第に彼の人間性に魅せられて行ってしまう。両親を殺害した憎むべき男の息子なのに・・・。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

東野圭吾氏の近刊「流星の絆」。前作の「ダイイング・アイ」ではかなり失望させられた東野氏だが、この「流星の絆」は汚名返上どころか、贔屓チームが代打サヨナラ満塁ホームランで勝利した程の満足感を与えてくれた。ミステリーの醍醐味の一つは「誰が犯人なのか？」だが、ミステリーをかなり読み込み、あらゆる方向から犯人を推理する癖の付いてしまった自分ですら完璧に犯人の読み違え。「あの人物が犯人とは・・・。」と唖然とさせられたが、同時に作者の絶妙なる伏線の張り方に感嘆。

又、随所に盛り込まれた遣り切れなさに、心がグッと鷲掴みに。「魔球」や「手紙」等、家族や兄弟の情愛を描いた東野作品に、どうしても自分は心を激しく揺さぶられてしまう。ラストに描かれた３兄弟の姿に、ついつい目頭が熱くなってしまったし。

直木賞受賞作で在り、ミステリー関連の賞を総嘗めにした「容疑者Ｘの献身」。東野氏の代表作とされるこの作品だが、自分の評価は然して高くない。寧ろ、「流星の絆」を彼の代表作の一つに推したい程。４年前の記事で「東野作品ベスト５」を挙げたが、そのベスト３に入り込む作品だと思う。

総合評価は星４つ。