海堂尊氏は、「生み出した作品に“外れ”が殆ど無い作家」の1人だ。しかし先日迄新聞に連載されていた小説「アクアマリンの神殿」は、同氏の作品とは思えない様な御粗末な内容だった。「仰々しい比喩の多用」は海堂氏が得意とする所で、従来の作品では其れが上手く嵌っていたのだが、「アクアマリンの神殿」では哀しい程に空回り。「其の内、面白くなるだろう。」と信じて読み続けていたけれど、結局、最後迄面白さを見出せなかった。総合評価を付けるとしたら、星2つといった残念な内容。
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東城大学医学部付属病院の窓際講師・田口公平は厚生労働省の窓際官僚・白鳥圭輔からの要請で、厚生労働省の会議に出席する為に上京。会議からの帰り道で白鳥と別れた田口は公園で身元不明の遺体と遭遇し、白鳥の指示で遺体を監察医務院に運び込み解剖を依頼する。
「青空迷宮」
桜宮市のサクラテレビが企画した、嘗て一世を風靡した芸人によるヴァラエティ番組の収録中に殺人事件が発生。捜査の為、桜宮警察署の玉村誠警部補と加納達也警視正が遣って来る。
「四兆七千億分の一の憂鬱」
夫と愛人が居る白井加奈という主婦が殺害された事件で、DNA鑑定の結果が一致したのは被害者とは何の接点も無いフリーターだった。DNA鑑定は絶対で在ろうと関係者が思う中で、加納は容疑者のアリバイや関係者の聞き込みを開始する。
「エナメルの証言」
桜宮市では最近、東京から活動拠点を移転して来た新興暴力団「竜宮組」の組員が焼身自殺で発見される事案が相次いで発生していたが、桜宮警察は遺書も存在し、又、歯科医による歯の治療跡の確認による鑑定でも、不審な点が見られないと判断されていた。だが、自殺したとされる鯨岡組長の人となりを熟知する加納は、一連の焼身自殺に事件性の疑いを抱き、玉村と共に捜査に乗り出す。
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小説「チーム・バチスタの栄光」で、文壇デビューを果たした海堂氏。以降、彼が生み出す作品は「過去の作品のキャラクターが度々、クロスオーバーして登場する。」というのが“原則”として在り、其れが故に“海堂ワールド”に深みが増して行ったという面が在る。今回読了した「玉村警部補の災難」も、「チーム・バチスタの栄光」から続く所謂「田口・白鳥シリーズ」の脇役で在る玉村警部補&加納警視正のコンビを主役に据えた短編集で、“海堂ワールド”に更なる深みを与えてくれる物と思っていたのだが・・・。
複合商業施設、例えば「ららぽーと」で買い物する予定だったのが、「近所の商店街」で買い物する事になってしまった。「玉村警部補の災難」を読み終えての感想を一言で言えば。そんな感じだ。「近所の商店街」には「近所の商店街」形の良さが在るのは否定しないが、「複合商業施設」的な「巨大空間」を求めている場合は、どうしてもガッカリ感が湧いてしまう。マクロ的な物を期待していたのに、ミクロ的な物が提供されてしまったというのが、此の短編集。「アクアマリンの神殿」に魅了されなかったのも、そういった面が在るかもしれない。
謎解きの面でも驚きが無く、海堂作品にしては在り得ない「遣っ付け仕事感」が漂っている。失望、失望、そして失望。総合評価は、星2.5個。