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博徒達の間に戦後の闇が残る昭和57年の広島呉原。愚連隊「呉寅会」を率いる沖虎彦(おき とらひこ)は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力と其のカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署二課暴力団係の刑事・大上章吾(おおがみ しょうご)は、沖と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の匂いを嗅ぎ取り、沖を食い止め様と奔走する。
時は移り平成16年、懲役刑を受けて出所した沖が、再び広島で動き出した。だが既に暴対法が施行されて久しく、シノギも儘ならなくなっていた。焦燥感に駆られる様に沖が暴走を始めた矢先、嘗て大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡秀一(ひおか しゅういち)が沖に接近する。
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柚月裕子さんの小説「暴虎の牙」は「孤狼の血シリーズ」の第3弾で、シリーズの完結編ともなっている。「昔、夢中になって見ていた映画『仁義なき戦いシリーズ』【動画】にテーストが似ている。」という事から、「孤狼の血シリーズ」に魅了されている。(柚木さん自身も、「仁義なき戦いシリーズ」のファンなのだとか。)第1弾「孤狼の血」(総合評価:星4.5個)、そして第2弾「凶犬の眼」(総合評価:星3つ)と読んで来たが、今回の「暴虎の牙」は昭和57年という時代に始まり、平成16年という時代で終わっている設定。愚連隊を率いる沖虎彦が勢力を拡大して行く中で捕まるのが昭和57年で、彼が出所したのが平成16年という事だ。だから、時代設定としては「『暴虎の牙』(前半)→『孤狼の血』→『凶犬の眼』→『暴虎の牙』(後半)」という感じか。
ヤクザだった父を“外道”と憎悪し、自身の手で殺害した虎彦。「悪事に手を染めても、外道にはならない。」と誓っていた彼なのに、追い詰められて行く中で、憎悪していた外道になってしまう。唯一と言って良い程に信じ合っていた幼馴染み達が、最後にはばらばらになってしまうというのは、何とも言えない物悲しさを感じてしまう。
又、最愛の妻と息子をヤクザに殺害された事で、「妻達を殺害した人物への復讐と、“堅気”に手を出すヤクザの取り締まりに燃えていた大上。」が“辿り着いた先”というのも、物悲しさを感じる。結果として(形として)、妻達を殺害した人物への復讐は果たせたと言えるのだけれど・・・。
ボーっとして読んでいると、“最後の人物”を誤解してしまうに違い無い。でも、彼が口にした言葉を読めば、「亡くなったのは〇〇では無く、XXだったのか・・・。」と気付くだろう。“業”に搦め捕られ苦しんでいる“友人”を、楽にしてやる目的で、彼は彼を葬ったのだ。
「もっと『孤狼の血シリーズ』を読みたかったなあ。」というのが、正直な気持ち。もう読めないのが、非常に残念だ。総合評価は、星4つとする。