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此の国は、戦争に負けたのだそうだ。占領軍の先発隊が遣って来て、町の人間はそわそわ、おどおどしている。遥か昔にも「鉄国」に負けたらしいけれど、戦争に負けるのがどういう事なのか、町の人間は経験が無いから判らない。人間より寿命が短いのだから、猫の僕だって当然判らない。
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伊坂幸太郎氏の長編小説としては、10作目の書き下ろし作品となる「夜の国のクーパー」。言葉を話す案山子が登場したりと、同氏の作品には現実離れした設定の物が少なく無いけれど、今回の作品でも「言葉を話す猫や鼠」、「歩く樹」が登場する等、御伽話チックな雰囲気が漂っている。こういうテースト、人によって好き嫌いがハッキリ出ると思うのだが、個人的には苦手な方なので、或る程度迄読み進めるのがしんどかった。
しかし或る時点から、一気にストーリーに引き込まれて行く。“不思議な設定”等が隠喩で在るのは最初から理解していたけれど、“断片的な情報”が或る時点で集約されて行き、其れが現代、否、古今東西の人類が抱えて来た“問題点”で在る事が曝け出されるから。
登場人物達の意外な正体が明らかになる展開は興味深く、特に或る人物の意外な容姿には驚き。誰もが知っているで在ろう、有名な風刺小説の主人公をモデルにしたと思われる。又、「夜の国のクーパー」という意味不明なタイトルも、最後の方で「『クーパー』という用語が、どういう事から出来上がったのか?」が類推される部分で、「成る程。」と腑に落ちた。上手いストーリー展開で在る。
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「だから、国王たちはクーパーという存在を触れ回り、兵士を送り込むことをはじめた。昔な、冠人(かんと)が俺に言ったことがある。国王が、国をまとめるためのこつを知っているか、とな。」。「こつなんてものがあるんですか。」。「あの男が言うにはな。」。「何だそれは。」医医雄(いいお)が訊ねる。「『外側に、危険で恐ろしい敵を用意することだ。』と、そう言っていた。」。「敵を用意する?」。「そうした上で、堂々とこう言うんだと。『大丈夫だ。私が、おまえたちをその危険から守ってあげよう。』とな。そうすれば、自分をみなが頼る。反抗する人間は減る。冠人はそう言った。」。
(中略)
「俺を信じるかどうかは、おまえたちの自由だ。どんなものでも、疑わず鵜呑みにすると痛い目に遭うぞ。たえず、疑う心を持てよ。そして、どっちの側にも立つな。一番大事なのはどの意見も同じくらい疑うことだ。」。
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総合評価は、星3.5個。