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熊野古道で、牛馬童子像の首が持ち去られた。其の半月後、大阪で男性の死体が発見される。彼は、大毎新聞の記者・鳥羽映佑(とば えいすけ)の知人で在る鈴木真代(すずき まよ)の夫だった。大学時代の先輩・浅見光彦に助力を求めた鳥羽は、熊野に向かっていた浅見と合流。和歌山県海南市の鈴木家で、真代に話を聞く事に。
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「『浅見光彦シリーズ』で有名な作家・内田康夫氏は2年前に脳梗塞を発症し、毎日新聞に連載中だった小説を休載していたが、自身で続きを書く事を断念。未完の儘刊行した上、完結編を公募し、来年以降に刊行する。」という話を、5ヶ月前に紹介した。其の“未完小説”「孤道」を、今回読んだ。
アルフレッド・ヒッチコック監督は自身の作品に出演する事で有名だったけれど、内田康夫氏も浅見光彦シリーズで“軽井沢のセンセ”として登場するのが常。好い加減で、浅見光彦に対して軽口を叩いて許りの軽井沢のセンセだが、今回の作品では体調の不調を訴えるシーンが在る等、連載中から体の異変を感じ取っていた節が在る。
又、「他の作品と比べると、光彦の口調が荒っぽい。」、「横柄な態度を見せていた警察関係者が、光彦の素性(兄・陽一郎が警察庁刑事局長で在る事を知り、態度を急変させるという“御決まりのシーン”が無い。」、「浅見光彦シリーズの定番で在る“マドンナとの交流”が無い。」、「浅見光彦シリーズでは置かれるのが常だったプロローグが、今回は無い。」等々、何時もとは異なる内容も、内田氏の体調との関係を感じさせる。
9年前に「牛馬童子像の頭部損壊事件」というのが在ったが、「孤道」は此の事件に着想を得ている。今城塚古墳や阿武山古墳、藤原鎌足、天智天皇、有間皇子等、浅見光彦シリーズでは定番の“歴史”が題材になっているのは嬉しい。
上記した様に、此れ迄とは異なるテーストは散見されるものの、浅見光彦シリーズは矢張り面白い。其れだけに、内田氏自身で作品を完結出来なかったのはファンとして残念だし、何よりも内田氏が無念な事だろう。
後書きで内田氏は「僕の作家生活最大の傑作になるのではないかと考えていた。」と書かれているが、テーマの壮大さも含め、自分もそういう作品になっていた気がする。内田氏自身で全てを書き上げていたならば、総合評価は「星4つ以上」に成り得ていたかもしれないけれど、未完という事で「星3.5個」とする。