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父が遺した謎の鍵を手にすると、大間木琢磨(おおまぎ・たくま)の視界に広がるのは、40年前の風景だった。若き日の父・史郎(しろう)が、勤務先の運送会社で取り組んだ新規事業開発、そして秘められた恋。
だが、凶暴な深い闇が、史郎に迫っていた。心を病み、妻に去られた琢磨は、自らの再生を掛け、現代に残る父の足跡を調べる内に・・・。
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池井戸潤氏の作品は此れ迄に丁度10冊読了しているが、元銀行マンの作家という事も在って、「企業を舞台にしたミステリー」という作風が主だった。しかし今回読了した「BT’63」は、「池井戸氏って、こんな作品も書くんだ。」という意外さの在る、SFチックな内容。心を病んだ琢磨が手にした謎の鍵とは、父・史郎が若かりし頃に勤務していた運送会社で使用されていた「ボンネットトラック(BT)の21号」の鍵で、其れを手にする事で当時の父親と“一体化”出来てしまうのだ。一体化と言っても、琢磨には父親と一体化している意識が在るのだが、史郎には琢磨の思い(声?)が伝わっても、其れが“将来の息子”の物で在るというのは全く判っていない。「此れは、面白い設定。」と思う一方で、「“今描かれている光景”は、一体誰の目を通しての物なのか?」というのが、最初は判り難かったりした。
SFチックな内容と書いたが、登場人物の中にはホラー系キャラといった感じの者も居り、余計に非現実的な感覚を持ってしまう。面白い事は面白いのだが、他の池井戸作品と比べると、読了後のスッキリ感は無い。全体的に冗長さを感じてしまうのも、マイナス要素と言え様。
総合評価は、星3つとする。