ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「弁護士探偵物語 天使の分け前」

2012年07月03日 | 書籍関連

人間誰しも、苦手な物は在る。自分の場合、ハードボイルド小説は苦手な物の1つ。ハードボイルド小説が好きな人達からすると「硬質な文体」や「な台詞」というのは魅力なのだろうが、自分からすると「気取った文体」や「気障な台詞」という感じにしか思えないのだ。

 

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「殺した記憶は無い。」。母子殺害事件の容疑者・内尾は言った。裁判の在り方巡っ司法検察真っ向から異を唱えた事で、弁護士の「私」は懲戒処分を受ける。

 

復帰して間も無く、事件で妻子を奪われた寅田が私の前に現れた。私は再び、違和感抱えていた事件に挑む事に。

 

其のその矢先心神喪失として強制入院させられていた内尾が失踪。更に周囲で不可解な殺人が起こり・・・。

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現役の弁護士でも在る法坂一広氏の小説「弁護士探偵物語 天使の分け前」は、第10回(2011年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で大賞を受賞した作品。福岡を舞台に、酔いどれ弁護士が探偵役となり、事件を解決するという内容。弁護士の「私」の視点で話が進むという、一人称文体のスタイルだ。

 

(ハードボイルド小説界の大家で在る)レイモンド・チャンドラー氏の文体を強く意識している様だが、「私」の口から吐かれるのは皮肉感たっぷりの減らず口許り。適度に加えれば料理を美味しくする「スパイス」も、入れ過ぎれば料理を不味くしてしまう。皮肉感たっぷりの減らず口も“適量”ならばハードボイルド小説をより魅力的にするのだろうが、徹頭徹尾用いられるとうんざりしてしまう。

 

著者自身は「面白い。」と感じているのかもしれないが、読み手としては面白さを感じ得ない“言い回し”が目立つ。火曜サスペンス劇場」や「僕の祖母ちゃん」といった物がそうだが、面白くも無い上に、其れ等を多用しているのだからが悪い。「~だった。」という結びが多いのも、文章の減り張りを無くしている。兎に角読むのが億劫になってしまう文章肝心の「謎解き」もパッとせず、「何で此の作品が、大賞を受賞出来たのだろうか?」と不思議でならない。

 

『このミステリーがすごい!』大賞」と言えば超売れっ子作家・海堂尊氏を発掘する等、色んな意味で成功した文学賞の1つと言えるが、此処数年の大賞受賞作品の出来は概して芳しくない。特に第8回(2009年)の大賞受賞作品「トギオ」に到っては、総合評価を「星2つ」とした程、評価出来る点が少ない内容だったが、「弁護士探偵物語 天使の分け前」はもっと評価出来ない。

 

「『このミステリーがすごい!』大賞」は4人の選考委員によって選ばれるが、「減点方式で、候補作品を振るい落として行く。」のでは無く、「候補作品の中から、加点方式で受賞作品を選ぶ。」事を心掛けていると言われている。普通の文学賞ならば落とされてしまう様な“荒削りな作品”で在っても、“キラリと光る物”が在れば、落とさない事も在り得る。

 

巻末には4人の選考委員達の選評載っているが、第10回の選考は相当に紛糾した様だ。「選考委員の推す作品がばらばらで2名以上から高い評価を得る作品が無かった。仮令支持が重なっても、2人の内1人は消極的推挙留まり、残りの2人は強烈な否定派に回る、といった具合で、落とし所が見付からなかったので在る。」という文章は、如何に今回の選考が揉めたかを表している。

 

幾ら加点方式で行くと言っても、一定水準に届かない作品に賞を与えてはいけない。と、自分は思う。「『このミステリーがすごい!』大賞」が市民権を得た文学賞だけに、余計にそう思うのだ。

 

此の作品を著者の法坂一広氏は、精魂込めて書き上げたに違いない。そんな作品に対して素人の自分なんぞが酷評するのは申し訳無い限りだが、ミステリー・ファンとして酷評しない訳にはいかない。総合評価は、星1.5個


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