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北海道天塩山麓の開拓村を、突然恐怖の渦に巻込んだ1頭の羆の出現。日本獣害史上最大の惨事は、大正4年(1915年)12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、僅か2日間に6人の男女を殺害したので在る。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音。自然の猛威の前で、為す術の無い人間達と、唯1人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮き彫りにする、ドキュメンタリー長編。
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熊に襲われ、複数の人間が殺された日本の事件と言えば、「1970年7月26日~29日に発生した『福岡大学ワンダーフォーゲル部羆事件』。」、「2016年5月~6月に発生した『十和利山熊襲撃事件』。」、そして「1915年12月9日~14日に発生した『三毛別羆事件』。」等が在り、何れもマス・メディアで何度か取り上げられて来たので、知っている方も多い事だろう。
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三毛別羆事件:1915年12月9日~14日に掛けて、北海道苫前郡苫前村三毛別(現在の苫前町三渓)六線沢で発生した、熊の獣害としては、日本史上最悪の被害を出した事件。蝦夷羆が数度に亘って民家を襲い、開拓民7名が死亡、3名が重傷を負った。事件を受けて討伐隊が組織され、問題の羆が射殺された事で事態は終息した。
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ノンフィクション物を十八番とする作家・吉村昭氏が、「三毛別羆事件」を題材にしたドキュメンタリー小説が「羆嵐」。「三毛別羆事件」に付いてはTV番組で取り上げられているのを見た事が在るけれど、今回読んだ「羆嵐」で、改めて事件の恐ろしさを痛感した。
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・「最初に女を食った羆は、その味になじんで女ばかり食う。男は殺しても食ったりするようなことはしないのだ。」。
・「これが、女の使っていた物だからですよ。どこの家でも腰巻や女の枕がずたずたに切り裂かれていた。女の味を知ったクマは、女の匂いのする物を手当たり次第にあさるのです。」。
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「戻り足」等、羆の習性が色々記されているのが興味深い。又、「暗闇の中から、羆が人骨を齧る音が聞こえて来た。」等、ぞっとさせられる描写も。
様々な面で、人間の対応が後手に回っていた感が在り、もっと早く的確に動いていたならば、被害はこんなにも大きくならなかった気がする。「羆を舐めていた。」、もっと言ってしまえば「自然を舐めていた。」と言えるだろう。
総合評価は、星4つとする。