「犬派?それとも猫派?」と問われれば、自分は完全な犬派で在る。猫では無く、犬が好きな理由は、「概して犬は、非常にフレンドリーだから。」というのが一番大きい。猫が好きな人から言わせると「犬は飼い主に阿る感じがするけれど、猫はそういう所が無いから好き。」というのが在る様だ。何方が良くて、何方が悪いという事では全く無く、「相手との距離感の好ましさ」が個々によって異なるという事なのだろう。
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子供の頃から日本各地に引越しを繰り返して来た宮脇悟(みやわき・さとる)は、相棒猫のナナを連れて、懐かしい人々を訪ねる旅に出る。
「家業を継いだものの、妻が家出中の幼馴染み。」、「今や立派な農業家となった、中学時代の親友。」、「高校&大学の同級生同士で、結婚してペンションを営む友人カップル。」。行く先々で思い出を語る時間は、悟とナナを迎える人々の胸の内にも、細やかだが大切な変化を芽吹かせて行く。
そして旅の果てに、1人と1匹が見る風景とは・・・。
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有川浩さんの小説「旅猫リポート」は、野良猫を拾ってナナと名付け、大事に育てていた悟が、“或る事情”からナナを手放さざるを得なくなり、「愛情を注いで飼ってくれる人に引き取って貰いたい。」と、“親友達”を訪ねて行くというストーリー。悟の“現在”と“過去”を、時にはナナが語ったりするのだが、“犬の視線”では無く“猫の視線”からというのが成功している様に感じる。冒頭で記した様に、猫には良くも悪くも「ドライさ」が在り、だからこそ「悟に対するナナの思い」が垣間見られた際には、余計に「愛情の深さ」が浮かび上がって来るので。
悟がナナを手放さざるを得ない“本当の理由”が、徐々に明らかとなって行く。其れを知った時には、堪らない思いになった。他者に対する思い遣りに溢れた悟だけれど、「彼が何故、そんな人格になって行ったのか(ならざるを得なかったのか)?」という経緯を知るに到っては、矢張り堪らない思いになった。悟と亡き両親との関係を知った時も、悟とナナとの“別れ”に触れた時も同様だ。「此の場面で、読者を泣かせよう。」という著者の“あざとい計算”を頭で認識していても、心が大きく揺さぶられ、何度も目頭が熱くなってしまった。
此の所、小説のレヴューで高評価を連発している。「そういうのって、噓臭く感じられそう。」という思いが在るので非常に迷ったのだが、良い作品に対し、意図的に低い評価は付けられない。総合評価は、星4つとさせて貰う。
「旅猫リポート」の表紙のイラスト、パッと見では「佐藤さとる氏(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BD%90%E8%97%A4%E3%81%95%E3%81%A8%E3%82%8B)の新作童話かな?」と思ってしまいました。
「マーケティングを行って制作された様な、或る意味ズルイ商品。」というのは凄く判ります。「泣かせるポイント」というのを計算尽くで設定している様な感じは自分もしましたし、ネット上のレヴューでも、そういう指摘は結構見受けられます。ですので、好き嫌いがハッキリする作品と言えましょうね。
読み終わった時には「良い作品だなあ。」と思ったのに、時間が経つと「そんなでも無かったかも。」と思う小説が在る。一方、読後は余り心に残らなかったけれど、時間が経つ程にじわじわと思いが深くなる作品も在る。動物を扱った小説で言えば、久保寺健彦氏の「空とセイとぼくと」(http://blog.goo.ne.jp/giants-55/e/fddc348b1e4a7399fc040d593fab4655)なんかは後者でした。