現在、爆発的にユーザーが増えている“つぶやき”Webサービス「Twitter」(ツイッター)と、ライブ動画メディアとして急速に花開きつつある動画共有サービス「Ustream」(ユーストリーム)。これらのサービスを巧みに駆使したインターネットライブ放送「ダダ漏れ」で話題となっているのが、ケツダンポトフの「そらの」さんだ。ケツダンポトフとは、ソラノートが運営するWebサイトで、Ustreamを使ってイベントやセミナー、記者会見や音楽ライブなどをライブ放送している。
各メディアに引っ張りだこのそらのさんに、Ustreamの将来性や今後の展開を聞いた。
「事業仕分け」「朝ダダ」「裏マスメディア」…話題のUstream放送を実施
「ダダ漏れのそらの」といえば、今やTwitter+Ustreamの世界の有名人だ。民主党の事業仕分けや大臣の記者会見、音楽イベントやファッションショー、学会や討論会にいたるまで、あらゆる場所やイベントでインターネットを利用したライブ放送を実施している。田原総一朗氏などの有名人が揃った討論放送「朝ダダ」や、ラジオ局とのコラボレーションによるライブ放送などでも人気を集めた。
Ustreamは、とても簡単にインターネット放送ができるライブ動画サービスだ。Webカメラとインターネット接続環境さえあれば、誰でもその場ですぐにライブ動画が放送できる。
ライブ動画サービスは以前からあったが、Twitterとの連携によって火がついた。Twitterで「これから放送するから見て!」と宣伝をしたり、放送中に視聴者の声をTwitterで拾う双方向性によって、ネットのライブ放送が俄然面白くなった。
最近では、ソフトバンクモバイルが自社のイベントをリアルタイム中継して1万人以上が同時に視聴した。毎日放送による選抜高校野球の配信では、同時視聴者が3万人を突破する日本記録を達成。既存のメディアの形を打ち破る新しいメディアが誕生したといえるだろう。
Ustreamがブレイクしたもう1つのきっかけは、2009年12月にiPhoneやAndroidといったスマートフォンから簡単に放送できるようになったことだ。片手に持ったスマートフォンだけで手軽に放送できるようになり、自分の顔を出して放送するユーザーも増えた。
1万人以上が視聴した「裏マスメディア」、反響も大きかった
そらのさんは、2009年5月からインターネットのライブ放送を始めたという。さまざまなイベントに対して積極的に取材を申し込み、有名人インタビューやビックイベントを中継してきた。
もっとも話題になったのは、3月22日に放送した「激笑 裏マスメディア~テレビ・新聞の過去~」だろう。ケツダンポトフが企画したもので、インターネット界の有名人が集結した。ピーク時で1万人以上(「ニコニコ生放送」での視聴者も含む)、トータルで約14万ビューを稼ぐなど、国内ではトップクラスのインターネットライブ放送となった。
――「裏マスメディア」の反響はいかがでしたか?
そらの: 「ピーク時で視聴者数9000人を超えたようで、本当にびっくりしました。あの企画自体は、2日前にTwitterでいただいた提案から始まっています。直前までバタバタでしたが、多くの著名人の方にご参加いただいたことで大きな反響がありました」
――不適切な発言が出たことも含め、賛否両論あるようですが?
(この放送では、お酒を飲みながら討論を進めたため、一部の参加者が中傷発言をしたことがTwitterなどで問題になった)
そらの: 「お酒が入ったことで出た不適切な発言を放送してしまったことは、私たちも反省して責任を感じています。アーカイブとしての保存は見合わせました。とはいえ、放送全体としては成功だったのではないかと考えています。コンセプトとしては、NHKの番組に突っ込みを入れたい、出演者に自由にやっていただきたいという2点でしたから、その意味では成功だと思っています。反省点を生かして、次回につなげていきます」
――そもそも「ケツダンポトフ」とは何なのですか?
そらの: 「私たちが所属する株式会社ソラノートのWebサイトで、Ustreamなどを利用したライブ中継を実施しています。コンセプトは3つ。まずは『構成しないでそのまま流そう』ということ。『ダダ漏れ』として、リアルな現場を見てもらおうという考え方です。2つ目は、Twitterの声を拾ってインタラクティブな放送にすること。最後は『少人数』でやるということです。少人数でどこまでインターネット中継ができるかということを試し、皆さんにもやってほしいと考えています」
プロデューサー1人、広報1人。たった2人の会社でやっている
――株式会社ソラノートは何名が所属しているのですか?
そらの: 「ご覧のように、たったの2人です(事務所内には、プロデューサーとそらのさんのデスクが向かい合っているだけ)。取締役には外部の方も入っていますが、常勤はプロデューサーと私の2人だけです。私が現場で中継し、プロデューサーが事務所でサポートする、というスタイルでずっと続けています」
――中継することで収益を得ているのですか?
そらの: 「中継自体は一切お金をいただいていません。唯一、テーブルマーク株式会社(カトキチ)さんから賛助金をいただいていますが、他の収入はゼロ。今の活動は、私たちのビジネスにおける第1フェーズであり、ネットのライブ中継を増やすのが目的なんです」
――今後、どうやってビジネスにつなげていくのでしょうか?
そらの: 「第2フェーズは『ライブ動画のハブ』になるのが目的です。ライブ動画のポータル的な検索メディアを作りたいのです。第3フェーズは、そこでビジネスをすること。詳しくは言えませんが、すでに第2~3フェーズも進行中です。現在の第1フェーズの時点で、ライブ中継をすること自体をビジネスにしようとは考えていません」
――ジャーナリストを目指しているのではないんですか?
そらの: 「よく聞かれるのですが、私たちはジャーナリストではありません。あくまでビジネス、ハッキリいえば金儲けとしての事業が基本です。そこに『面白いからやってみよう』という感覚をプラスしている感じでしょうか」
――よく『そらのという人格はアバター』とおっしゃっていますが、どういう意味ですか?
そらの: 「アバターと言っているのは、作り上げられた人物という意味ではなく、『媒介者』としてのアバターです。『そらの』が現場へ行くことで、カメラを通じて視聴者もその場に連れて行くというイメージですね。私たちがドアをパッと開けることで、視聴者のみなさんが今いる場所から現場に行ける。私たちがやっているのは『ドア』なんです」
――『そらの』として常に顔出しすることに抵抗はありませんか?
そらの: 「最初のうちは、ダダ漏れの元祖であるトミモトリエさんの放送を見て『ネットで動画が流れちゃうんだ!』『顔も平気で出しちゃうんだ!』ってびっくりしましたよ。でも、今ではまったく平気で抵抗感はありません。仕事としてやっていることもありますが」
――落ち込んだり、やめようと思ったことはありませんか?
そらの: 「数え切れないぐらいありますね(笑)。失敗も多いし、批判もいただいてヘコみますよ。そんな時は、気持ちをどん底まで落とすことでリセットしています」
プロデューサー: 「彼女はある意味図太いですね。落ち込むときは、声をかけられないぐらいヘコんでいます。でも、翌日になるとケロッとしてる。開き直りのパワーとでもいうんでしょうか」
すでに250回以上を放送。今後は本格的な討論会やコラボレーションも
実は、今回のインタビューでそらのさんに「ダダ漏れ」されながら、筆者も機材を持ち込んでダダ漏れの真似事をしてみた。カメラでそらのさんの顔を捕らえ、Ustreamとニコニコ生放送で放送しながらインタビューしようとした。
だが、結果は惨敗。準備に手間取ってスタート時間が大幅に遅れたうえ、途中で何度も放送がストップしてしまい、ひどいライブ動画になってしまった。「ネットライブ動画は一人で簡単に放送できる」とよく言われるが、本格的にやるとなるとかなり大変なことが実感できた。
――一人で中継って、本当に大変ですよね?
そらの: 「慣れかもしれませんね。2009年5月からダダ漏れを始めて、記録しているだけでも250回以上中継してきました。あれこれ試行錯誤しながら、今のスタイルができあがったんです。私たちは、映像や音のクオリティーを重視していますから、これを一人でやるのはさすがに大変かもしれません。しかし、今はiPhoneだけで簡単にライブ放送ができますから、まずはどんどんチャレンジしてほしいと思います」
――これからライブ放送に挑戦したいと思っている人にアドバイスをお願いします。
そらの: 「まず、肖像権と著作権に配慮すべきです。撮影前にきちんと許可を取ることと、音楽などの著作物の扱いには慎重になる必要がありますね。技術的には、映像よりも音にこだわってください。『映像が悪いのは“味”になり得るが、音が悪いのはダメ』と言われたことがあります。音をきちんと拾う努力をすれば、いい放送になるはずです」
――今後は、どんなライブ放送をしていきたいですか?
そらの: 「音楽ライブやイベントなどを増やしたいですね。他のメディアとのコラボレーションにも挑戦したいです。ラジオ番組とのコラボもしてきましたし、テレビ局とのコラボも進行中です。討論会の第2回もやりたいですね。前回とはスタイルを変え、著名人による討論会ができればと考えています。もう1つの願いは、もっとライブ放送を増やすこと。私たちのようなスタイルでライブ放送する人が増えればいいなあと思っています。ネットライブ放送の『ハブ』になることが、私たちの願いなんです」
――今後、Ustreamはどうなっていくと思いますか?
そらの: 「今よりも“番組的”なものが増えそうですね。複数のカメラを使って絵を切り替えたり、流れや構成がしっかりするなど、本格的な放送が増えていくと思います。Ustreamの将来性としては、そのような本格的な番組から個人のチャット的な放送、学会の中継から音楽イベントまで、あらゆるジャンルをカバーするライブメディアになると考えています」
そらのさんによる「ダダ漏れ」は、毎日のように放送されている。ケツダンポトフのWebサイトには詳細なスケジュールが掲載されているし、 Twitterでそらのさんをフォローすればリアルタイムでライブ放送を体感できる。
4月15日の夜には、大規模な企画放送「朝までダダ漏れ討論会」の第2回が開催される。フジテレビとのコラボレーションで、深夜番組「ノイタミナ」内でもナマ討論が開催される予定だ。メディアジャーナリストの津田大介氏、早稲田大学文学学術院教授の東 浩紀氏、法政大学社会学部准教授の白田秀彰氏などが参加するので期待したい。
Twitter+Ustreamというムーブメントは、メディア全体を揺るがす現象になる可能性がある。ライブ放送を体験し、可能であれば放送する側にチャレンジしてはいかがだろうか。メディアのスタイルやビジネスという堅苦しい話は抜きにしても、単純に「面白くてワクワクする」はずだ。