ホリエモンこと堀江貴文さんが「消費税を下げろ」と言う人に対して次のように言ったらしい。
「消費税あげるな、富裕層が負担しろ、移民は嫌だ。中国怖いから防衛費は上げろ、予防とかしたくないけど病気になったら医療費は保険でカバーしろ、年金はちゃんとくれ、とかみんなワガママすぎるんだよな」 (yahooニュース)
「消費税を上げるな」という主張は本当にワガママだろうか? もともと税金というものは所得の再配分であるという考えに立つなら、消費税そのものが税金の趣旨に反しているという考えも成り立つ。堀江さんは若いから消費税が導入された経緯をたぶん御存じないのだろう。消費税が必要になったのは所得税と法人税の度重なる減税のせいであることを忘れてはならない。ちなみに昭和49年度の所得税の最高税率は75%で住民税と併せると93%もの高額負担となっていた。当時はまだ高度成長の途中だったので、個人も企業もその収入はかなりインフレ気味で年々重税感が増していた。だから減税そのものは免れないのだが、本来なら税率はそのままにしておいて税率テーブルの閾値をインフレ調整すれば良いところを、給与所得者の税負担軽減を理由に税率そのものを引き下げてしまったのだ。
収入捕捉率の高い給与所得者を優遇したいなら、それなりの方法はいくらでもあると思うのだが、所得税率を引き下げることによって一番得をしたのは高額所得者である。消費税導入前にあるテレビの報道番組で、普段リベラルな意見を述べていた人が「消費税導入やむなし」と述べているのを見て驚いた。なんの事はないこの国の政策決定に参画している人のほとんどは高額所得者なのである。テレビで意見を述べているような人はほとんどが一般サラリーマンと比較すればはるかにリッチな人達であるということを思い知らされた。とにかく所得税率は度重なる減税でどんどん引き下げられていった、それとともに消費税率の引き上げが取りざたされることになった。将来的には消費税率が20%程度に上げられるのは当然視されているような事態である。
堀江さんは「所得税率を高くすると金持ちが外国へ逃げていく」と言っている。私はそれでいいんじゃないのと思っている。金持ちの人は勝手にルクセンブルクでもバハマでも行って金満生活を謳歌していただければ結構。「貧しきを憂えず、等しからずを憂える。」という言葉もある。日本国内では貧乏人同士が仲良く暮らせばいいのだ。実際のところ資本の海外流出はやっかいな問題だが、対処する方法は必ずあると思う。
消費税導入と歩調をそろえて法人減税も実施されていることを見逃すべきではない。(=>「法人税率の推移」) アベノミクスというのは結局法人税の軽減、財政の大盤振る舞いし、そして低金利で金融をだぶつかせれば経済活動は活発になる、という単純な発想に基づいている。税収の足りない分は国債発行で賄うから大丈夫、景気が良く成れば経済規模も大きくなり、インフレ効果で財政赤字も相対的に縮小するから問題ないという見込みだったのだろう。ところが、日本の人口は頭打ち、近視眼的な視点しか持たない日本の経営者は積極投資より利益確保の方に躍起となった。法人減税がその傾向に拍車をかけることになった。高度成長期には法人税率が高いこともあって、企業は利益を出して税金を取られるくらいなら設備投資したり社員にボーナスを出したりして、極力利益を圧縮しようしたものだが、最近の企業は設備投資や研究開発費をケチり、非正規社員を安くこき使って利益を上げることに血眼になっている。そのおかげで、企業は膨大な内部留保を蓄えることができた。その結果2021年度の企業の内部留保は、金融・保険業をのぞく全業種で500兆円を超えた。なんと国民一人当たりにすると、一人当たり400万円になる。まことに慶賀に堪えない。
しかし当たり前の話だが、企業がいくら内部留保を貯め込んでも日本の経済活動は活発にはならない。経営者の思考が内向きになっている間に日本は世界の趨勢から取り残されてしまった。かつて、半導体や液晶の技術は日本が世界の先端を走っていた。ところが、今や韓国や台湾の後塵を拝している。日本のサラリーマン経営者がちまちました利益確保に拘泥している間に、韓国や台湾の企業は研究開発や生産設備への大規模投資で世界市場を日本から奪い取ったのである。そういう観点から見れば、法人減税はすべきではなかった。むしろ法人税率を上げて、研究開発費や設備投資に対して経費一括計上などの税制優遇を検討すべきであったと思う。
以上のような観点から、私は消費税の引き上げには断固反対である。消費税を上げるくらいなら所得税と法人税を上げるべきで、資産課税の強化を考えても良いと思う。
横浜公園から日本大通りを望む