先日地区センターの窓際で読書していたのだが、隣の私と同年配の男性の読んでいる本のタイトル「『あの世』の本当の仕組み」が目に入ってきた。最近はやりのスピリチュアルとというやつらしい。英語の spirit は日常的には精神とか根性と訳されるが、宗教的には霊魂とか聖霊の意味を持つらしい。で、本来の意味からすれば精神の奥深くのことがらについて扱う分野ということになるのだろうが、「精神 → 非物質 → 科学が及ばないことがら」という連想が働いているのだろうか、超常現象的なことがらをもっともらしい言葉で語るのがこの頃のスピリチュアルなのかなと私には思えるのである。その「スピリチュアル」についてもう一つ引っかかるのが、それが哲学として語る人がいることである。私はこのブログを「にほんブログ村」の哲学というカテゴリーに参加しているが、私から見て明らかにスピリチュアルな内容のものもエントリーされている。
哲学とはあらゆることについて考える分野でもあるのであまり了見の狭いことは言いたくないが、哲学ではどんなことも明晰な言葉で語られなくてはならないし、その言葉には確かな直観が伴っていなくてはならないと思う。つまり、哲学とスピリチュアルは全く違うと言いたいのである。ところで、
あの世の仕組みが本当に分かるものだろうか?
どんな知識もなんらかの形で自分の経験とつながっていなくては本当の知識とは言えない。「『あの世』の本当の仕組み」の著者はどうやら前世の記憶を持つ人らしいのだが、たとえその人が本当のことを述べているのだとしても、それが本当のことだと分かるためには読者の方にも前世に関する何らかの経験とその記憶がなければならないはずである。例えば自分が夢で見たようなことが書いてあるからと言って、それが真実であるとは言えない。想像可能なことであればどんなことでも夢に見る可能性があるからである。「そういわれればそんな気がする」ということと「そう考えるしかない」とは相当隔たりがあるということを理解しなければならない。「そんな気がする」というだけで、「腑に落ちる」と言うべきではない。
読者評の中に次のような一文があって気になったので取り上げてみることにする。
【 量子論的宇宙観で時空間のない無物質の世界や平行宇宙も視野に入れて読まないと、視点が飛躍しているように感じて理解困難かもしれません。輪廻転生の解釈も新しい視点で説明されていて、私自身は、なるほどと納得できる部分は相当多かったです。 】
こんな文章を読むと、量子論の専門家も目をむくのではないかというような気がする。量子論というのは感覚ではとらえることのできない世界を数式で世界を解釈する学問なので、そこから輪廻転生などという込み入った世界をリアルに思い描くのは不可能だと思う。第一「時空間のない無物質の世界」などというものは言葉では言えるが想像することが出来ない。無理に想像しようとしても「変化のない暗黒の空間」を思い浮かべるのが関の山となる。つまり、「時空間のない無物質」という概念として規定できても、その物自体としては想像も認識も出来ないものであるから、その言葉を言っている本人は自分が何を言っているかを承知していないのである。
どんなことであれそれを信じれば力強く生きていけるというのであれば、横から口を出すのはよけいなことだと思うが、なにを信じても良いというものでもない。あまり信じやすいと統一教会みたいなのに引っかかってしまう恐れがある。どうせ信じるなら、仏教やキリスト教のような伝統のある宗教を信じた方が良いと思う。
美空ひばりの眠る日野公園墓地から横浜市街を望む