昨日までとは風向きが少し変わって若干涼しくなったように思えますが、湿気はあいかわらず、秋の爽やかさを感じるのはまだ先のようです。
「バブさん、ジャズ聴くんですって?嬉しいなぁ、なかなか話が合う人がいなくて」
と声をかけてきたのは、一週間ちょっと出張で滞在しておられるNさん。
「いやぁ、iPodには何曲か入れて持ち歩いてるんですけどねぇ、お酒飲みながらじっくりジャズが聴けるお店なんかありませんかねぇ?」
気持ちは分かりますが、田舎にそうそう都合の良い飲み屋は無いわけでして
「じっくり聴きながらってお店は難しいかなぁ・・・・バックにジャズが流れている飲み屋はありますけどね。」
「何処でもいいから、バブさん連れてってくださいよ」
「好みに合うかどうかは分かりませんが、いいですよ、今度ご一緒しましょう」
社交辞令の「今度」ほどアテにならないものもありません、ましてあと数日しかここにおられないのですから(笑)
それでも、今日は昼食をとりながら、しばしお話をさせていただきました。
それがねぇ、珍しいというか、私は会ったことがないというか、
「僕ね、ドン・ランディが大好きなんですわ」
とNさん。
いやね、話の途中で「ドン・ランディのピアノなんかも好きなんですけどね」って出てくるんだったら分かるような気もするんですよ。それが開口一番ドン・ランディって・・・
FEELIN' LIKE BLUES
Nさんは、現在30代後半、ジャズを意識して聴き始めたのはここ5年ほどなんだそうで、
「最初はねぇ、何からとっかかって良いもんやら分からなくて、友達にジャズ好きってヤツもいなかったし」
これは良く聞く話であります。
「いいじゃないですか、ともかくなんかを聴いてジャズに興味を持ったんでしょ?入り口なんて何でもいいんですよ。べつにジャズだけそこに大きな扉が有るわけでもなし、「おっ、この音楽いいジャン」って気がついたらジャズだったみたいなのが一番でしょ。あっ!それがドン・ランディだったとか?」
「いや、バブさんはそういう意識で聴き始めたかもしれませんけど、私の場合は、そこにかなりの下心がありまして・・・」
カラオケだなんだと馬鹿騒ぎしていたNさん、ある日先輩にお洒落なバーへ連れて行ってもらったんだそうで、静かにウイスキーかなんかを飲んでいるその雰囲気が、「大人だなぁ~~」と感じたんだとか、その時
「30代も半ば近くなれば『大人の男』を目指さないと、女にももてやしない」
と思ったというのです。
そしてそこで流れていた音楽、つまりジャズも
「『大人の男』には絶対に必要なアイテムだ!なんてね思ったのがきっかけですから・・・じつに不純なんですよ。」
あはは、私が中高生時代にギターを手にしたのにさも似たり、ってなとこですか。でもきっかけがなんであれ、それでジャズ好きになってくれれば「結果オーライ」であります。ただし、けしてジャズが女にもてるアイテムだとは思いませんけどね。(笑)
話を戻しましょ、
友達にジャズを聴く人もおらず、Nさんはどうしたかというと、いわゆる入門本にまずは頼ったのだそうです。(これもよくある話です。)
「いろんな本読みました」
これはあまり感心しませんが、Nさんは真面目で勉強熱心だということでしょう。
「レンタル屋にあるものを片っ端から借りてきて、そのうちに中古のレコードショップ覗いたり、結局プレーヤーまで買っちゃいましたよ。」
「フムフム・・・・・それじゃ、何でドン・ランディ?」
「バブさん、寺島靖国って知ってます?」
「メグのマスターね、知ってますよ。向こうは私のことを知ってませんけど、笑」
「彼の『ここを聴け!JAZZ最高の愉しみ方』って読みました?」
「ごめん、それは読んでないわ」
その『ここを聴け!JAZZ最高の愉しみ方』の中で、ドン・ランディの「枯葉」つまり「WHERE DO WE GO FROM HERE ?」が紹介されており、
「それが、僕が始めて買った中古のLPになったんですよ」
「こりゃまた、始めて買ったLPがドン・ランディとは、冒険したねぇ」
始めて買ったLPへの思い入れ、これはじつに良く分かる感覚です。とりあえずはNさんのドン・ランディ好きに納得をした私でした。
その後は、『平岡vs寺島 話』を私が持ちだして、昼休みは終了となりました。
まっ、飲みに行くのは時間的にも難しいかもしれませんが、ドン・ランディの「FEELIN' LIKE BLUES」は持っているものの「LAST NIGHT」は持っていないとNさんは言っておりましたので、「録音して渡してやろうかな」なんて思っています。
LAST NIGHT
さて、ということで、今日の一枚は、もちろんドン・ランディです。
なんでこのアルバムの邦題が「枯葉」なのか?「WYNTON KELLY ! 」の邦題が「枯葉」なのと同じ、「何といっても、日本人は『枯葉』好きだから」って事なんでしょうね。(とか言って、私が「WYNTON KELLY ! 」を買ったのは中3の時、「枯葉」なら知ってるって買ったんですから、戦略に乗せられた一人なんですよね。笑)
正直に言うとウイントン・ケリーの「枯葉」のほうが、「枯葉」の演奏としては数段上だと私は思います。ランディが不味いと言ってるんじゃありませんよ。このアルバムに「枯葉」の邦題は無いだろうということです。
ドン・ランディという人は、十数年間クラシックを学び、LA音楽院在学中にジャズに興味を持って、以降十年近くハリウッドのクラブで活躍(?)したという経歴のピアニストですが、いわゆるウエスト・コースト・ジャズのブームに乗っかった感はありません。
結局は自分も「THE BAKED POTATO」というジャズ・クラブのオヤジに収まっちゃって、
余談ですが「THE BAKED POTATO」は今も健在なのでありましょうねぇ?ちょっと前に「THE BAKED POTATO LIVE」なんていう有料ライブ映像配信なんかもやっていたようですし・・・・・
ともかく、ランディという人は、Nさんじゃないけどジャズだけに傾倒した人ではなく、それが演奏される場所、客、雰囲気に最大の魅力を感じた人だったんじゃないか、そんな気がします。
演奏を聴いても自分の主張を押し通すというよりは、全体を楽しく聴かせる「こんな演奏を聴かせるクラブなら、あなたでも楽しめそうでしょ」的な感じがするのです。それでいて大きく基本を外さないのが彼らしさといえばそうなるのかもしれませんけど。
このアルバムは、全体を通してルロイ・ビネガーのベースがアクセントになっています。もちろん、この時はまだモンタレー・ジャズフェスのハウスドラマー的存在だったメル・ルイスも正確なタイム感覚で堅実なドラミングを聴かせてくれますよ。
WHERE DO WE GO FROM HERE ? / DON RANDI
1962年1月31日, 2月1日録音
DON RANDI(p) LEROY VINNEGAR(b) MEL LEWIS(ds).
1.T.J'S BLUES
2.WALTZING MATILDA
3.I LOVE PARIS
4.THAT'S ALL
5.TAKE SIX
6.INTERLUDE
7.AUTUMN LEAVES
8.GYPSY IN MY SOUL