木村 太郎のNon Fake News
「中国がロシアの寝首をかく?」ロシア支援うたう一方で旧清朝領ウラジオストクなどの奪還に虎視眈々
ジャーナリスト 木村太郎
木村太郎2023年3月6日 月曜 午後0:32
ウラジオストクは「海参崴」…地名を中国式に
「ロシアを支援すると宣言しておきながら、中国はモスクワの弱みに乗じてその寝首をかこうというのだろうか?」
2月26日ウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」電子版に掲載された記事の小見出しだ。
「寝首をかく」とした部分の原文は「stab in the back」で「背中から刺す」だが、不意打ちを仕掛けるという趣旨なので「寝首」の表現にした。
記事は、最近中国が国境近くのロシアの地名を中国式に呼び替えると決定したことに注目し、ロシアがウクライナ侵攻で弱体化すれば、かつてロシアに収奪された地域を奪還しようという伏線ではないかと分析したものだ。
ロシアに割譲させられた旧清朝領(ピンクと黄土色の部分 Library of Congressより)この記事の画像(6枚)
その地名を中国式に呼び替える措置は中国天然資源部がこのほど発表したもので、ロシアと中国の国境にある8つの地名について現在ロシア語で発音されている地名に加えて昔から親しまれている中国名も地図上に記載することが義務付けられることになった。
例えばウラジオストクは「海参崴」サハリンは「庫頁島」などという中国名がロシア名とともにカッコ付きで付記される。
ウラジオストクの旧中国語名は「海参崴」
旧清朝領のロシアの地名を中国式呼称に
単なる懐古趣味と考えられないこともないが、実は今回中国式の呼称が義務付けられた地域はいずれもかつては清朝の領土の一部で、「アロー戦争」(1856年)で清朝が西欧列強に敗れて弱体化したのに付け込んでロシアが1860年の「北京条約」で割譲を認めさせたものだった。
中国としてはこれらの地域を回復する願望を隠そうともしていなかったが、ここへきてそれらの地名が中国式に呼び替えられることになったのは偶然ではないという分析が中国のSNSなどで盛んになっているという。
中国の習近平国家主席
病身のロシアに付け込む中国?
それを最も端的に解説しているのが産経新聞の矢板明夫台北支局長のフェイスブック「矢板明夫倶楽部」(中国語)だ。
「今回、ロシアが本当に崩壊したら、習近平は手を振って『失った領土を直ちに回復せよ』と命令する可能性がある。これが『病身に付け込む』ということである」
産経新聞矢板明夫台北支局長のフェイスブック「矢板明夫倶楽部」
「ロシアの崩壊」は西欧側の希望的観測ばかりではない。ロシア政界のナンバー2のドミトリー・メドベージェフ前大統領は先月22日「勝利を収めずに特別軍事作戦をやめれば、ロシアは引き裂かれ、消滅するだろう」とSNS「テレグラム」に投稿した。
プーチン大統領自身も26日放映されたテレビのインタビューで、ロシアの将来が危機に瀕していると述べ「西側諸国の目的は一つしかない。
旧ソビエトとその根幹を成すロシア連邦の解体だ」と危機感をあらわにした。
ロシアのプーチン大統領
「中露関係は岩のように堅固」とは裏腹に
そうしたロシアに中国が軍事支援を行わないように米国が牽制しているが、もし中国がロシア崩壊後に旧領土の回復を目指すのであれば、「病身」のロシアに救いの手を差し伸べるだろうか。
最近モスクワを訪問した中国の王毅政治局員は「中露関係は岩のように堅固だ」と言ったと伝えられるが、前出の「矢板明夫倶楽部」はこう締めくくっている。
「歴史を勉強した人なら誰でも知っているように、露中関係の歴史はごまかしと欺瞞の書である。彼らでさえ、自分たちの言うことを信じてはいない」
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】
木村太郎
理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。
慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転