自然豊かな立地にあり、ソウル市内から電車で行ける韓国のテーマパーク「レゴランド・コリア・リゾート」。インフレ抑制と金融安定維持の両立を目指す世界的な闘いで、思いも寄らない象徴的な存在となっている。
同テーマパークの開発業者による2050億ウォン(約210億円)相当のデフォルト(債務不履行)は、1690兆ウォン規模の韓国クレジット市場に世界金融危機以降で最悪のメルトダウンを引き起こした。金利上昇が世界の不動産市場に打撃を与える中、韓国のような比較的安定した金融システムでさえ問題波及の脅威に直面していることを再認識させた。韓国は今年、国際通貨基金(IMF)から「弾力性」があるとの評価を受けていた。
レゴランド・コリアの開発業者によるデフォルトについてKathleen Hays記者がリポートSource: Bloomberg韓国銀行(中央銀行)は昨年8月、世界で最も早く利上げサイクルに転じた国の1つになった。消費者物価の上昇率は一時、この20年余りで最高の水準に達し、中銀はインフレとの闘いを今もなお続けている。
レゴランドの開発業者によるデフォルトは短期債利回りの急上昇を招き、韓国債券市場における問題の最初の大きな兆しとなった。
韓国は「間違いなく炭鉱のカナリアだ」と、数十年前から超低金利の危険性に警鐘を鳴らしてきた国際決済銀行(BIS)の元チーフエコノミスト、ウィリアム・ホワイト氏は指摘する。「レバレッジや慎重さに欠ける金融活動がこれほど長く続いた後に引き締めを実施する」国々は「回避しようとしてきた危機を引き起こす恐れがある」と述べた。
レゴランドは韓国初の世界的ブランドの遊園地として5月に大々的にオープンした。山が多く開発が遅れ気味で、2018年冬季五輪開催後に債務に苦しむ江原道にとって、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた観光業を立て直す絶好の機会となるはずだった。
だが9月29日、新たに就任した江原道知事の金鎮台(キム・ジンテ)氏はレゴランド事業向け江原中道開発公社(GJC)の債務について保証を履行しなかった。GJCと筆頭株主である江原道の取り決めは金知事と政治的に対立する前任者の下で行われた。政府機関による不履行は、既に金利上昇が逆風となっていた短期市場に追い打ちをかけた。
韓国銀行の李昌鏞総裁Photographer: Woohae Cho/Bloomberg韓国銀行の李昌鏞総裁は11月25日のブルームバーグテレビジョンとのインタビューで「1つの道による1つの間違い」が「信頼を揺るがした」と指摘した。
短期債利回りが急上昇する中、韓国当局は数十億ドル規模の金融市場支援を表明した。それはメルトダウン阻止に役立ったが、短期金融市場の利回りはなお14年ぶりの高水準付近にある。
その前にも韓国には、家計債務増加や集合住宅値下がりなど大きな危機につながる下地があった。07年の米サブプライム危機前と似た状況だ。中国もこの2年、記録的なデフォルトを背景に、前例のない不動産債務危機に見舞われている。
DBSグループ・ホールディングスの馬鉄英エコノミストは中韓について、経済規模と比較して「企業債務が顕著に増えている」とし、「金利やインカムのショックに対する脆弱(ぜいじゃく)性が比較的高いことを示唆する。世界的な流動性引き締めや輸出低迷がその契機になる恐れがある」と分析した。
GJCがデフォルトに陥ったのはプロジェクトファイナンス資産担保コマーシャルペーパー(PF-ABCP)。市場規模は推計約35兆ウォンで、韓国不動産業界全体の主な資金源だ。証券会社はこれら証券の一部に裏付けを提供しており、中銀のデータによると、不動産関連プロジェクトファイナンスに対するエクスポージャーは6月末時点に平均で株主資本の39%に達した。今月2日時点の中銀データによると、こうした証券のうち約11兆3000億ウォンが年内に償還期限を迎える。
今回のデフォルトはレゴランドの開発業者であって運営業者ではない。それぞれ別の事業体だ。韓国の他にレゴランドを世界9カ所で運営する英マーリン・エンターテイメンツは「レゴランド・コリア・リゾートは営業を継続しており、通常通りの運営だ」とし、「債務はレゴランド・コリア・リゾートやその財務、運営に直接の影響はない」とコメントした。江原道とGJCはいずれも取材の要請を拒否した。
韓国中銀の李総裁はストレスが短期債市場にとどまっており、金融システムはなお健全だと強調した。
GJCの事務所(春川市)Photographer: Woohae Cho/Bloombergデフォルトを受け、当局は利回り急上昇に歯止めをかける動きに出た。50兆ウォン余りの市場支援策、流動性拡充に向けた担保規則変更、CP買い入れ、プロジェクトファイナンスの追加保証などだ。
相次ぐ措置を受け、韓国クレジット市場にはここ数日に回復の兆しが幾つか見られた。債券スプレッドは縮小し、短期債利回りは横ばいとなった。
バンク・オブ・アメリカ(BofA)のエコノミスト、キャサリン・オー氏は「予想を上回る市場安定化資金は、短期金融市場の最近の信用収縮に対処するには十分な可能性が高い」とした上で、「クレジット市場の信頼回復で韓国政策当局にとっての最大のハードルは足元のマクロ状況だ。高インフレが持続する限り、韓国中銀は金融状況をタイトにする景気抑制的な金融政策を続けざるを得ない」と分析する。
金知事も最終的には妥協し、江原道が12月15日までにレゴランド・コリア事業向けのABCPを返済すると表明した。
あらゆる措置にもかかわらず、CP利回りはGJCデフォルト後に記録した高水準付近にとどまる。
さらに、あまり知名度の高くない保険会社である興国生命保険が永久債の早期償還の権利行使を見送る「コールのスキップ」を11月に発表し、アジア全体でこの種の証券の売りを招いた際には域内への波及リスクが注目された。同社はその後、決定を覆している。
ムーディーズ・インベスターズ・サービスのシニアクレジットオフィサー、アヌシュカ・シャー氏は「なお低い不履行率や好ましいインタレスト・カバレッジ・レシオを踏まえると、この1カ月の出来事はほぼ収束したとわれわれは現時点でみている」し、「とは言え、ABCP市場のプロジェクトファイナンス関連融資が幅広い社債に波及するリスクはなおある」との見方を示した。
レゴランドがある春川市Photographer: Woohae Cho/Bloomberg韓国当局者はブルームバーグに対し、危機の波及を食い止めたと説明した。しかし、このような状況展開は、世界の当局者が景気下降や戦争、欧州のエネルギー危機、08年に比べて高い債務基準への対応を迫られる中で直面する綱渡りの難しさを物語る。
BISのデータによると、20カ国・地域(G20)では非金融会社に対する与信が国内総生産(GDP)の96.9%相当と、08年より高くなっている。韓国に至っては95%から116.5%に上昇した。
08年金融危機の要因となった住宅ローン担保証券市場の崩壊を予見したことで知られるエコノミストのヌリエル・ルービニ氏は今年、ブルームバーグのポッドキャストで経済全般に関する発言で、「行動の余地は極めて限定的だ」と指摘。インフレ率は1970年代に高かったが、「今回は金融・債務問題があるためもっと悪くなる」とし、「容易な解決策はない」と述べていた。