中国は再び“救世主”にはなれない…今後、世界経済のお荷物になる理由
国際 中国
「今年失業するホワイトカラーは47%超」の試算
中国ではゼロコロナ政策が解除され、ホテルやレストランなどに客足が戻りつつあるが、V字回復の期待は裏切られている。
深刻なのは自動車市場だ。
今年1~2月の新車販売台数は前年比15.2%減だった。
市場で激化している価格競争に危機感を覚えた中国汽車工業協会は3月22日「業界の安定的な発展が損なわれる行為は控えるべきだ」と加盟企業などに訴えかけた。
自動車など耐久消費財の需要低迷のせいで1~2月の中国のドル建ての輸入額は前年に比べて10.2%減少した。
消費者を慎重にさせている要因は、不動産市場の低迷、公務員給与や医療補助などを削減する政府の対応、雇用不安などだ(3月16日付ロイター)。
中国の新規住宅価格は16ヶ月連続で下落し、ようやく1月に下げ止まったようだが、楽観できない状況が続いている。
不動産市況の急激な悪化で地方政府の財政は火の車だ。
主要な収入源である土地売却収入は今年1~2月、前年比29%減となり、地方政府が抱える債務の合計は9兆ドル強に膨らんでいる(3月17日付ロイター)。
資金難にあえいでいる地方政府にとって残された手段は大幅な支出削減しかない。
雇用不安もますます深刻になっている。
民間調査会社によれば、今年失業する可能性を恐れているホワイトカラーの割合は47%超に達している有様だ。
政府が個別の補助を行う可能性も低いとされており、ゲオルギエフ氏の見立てとは異なり、中国の個人消費の見通しは暗いと言わざるを得ない。
泣き面に蜂の締め付け
中国の1~2月の工業利益も前年に比べて22.9%減少しており、中国政府が掲げる今年の経済成長目標(5%前後)が未達になる可能性が生じており、「下振れリスクへの備えが必要だ」との声が出始めている。
苦境にあえぐ中国経済にとって「泣き面に蜂」なのは、米国の中国経済に対する締め付けが強化されていることだ。
輸出規制を課された国内の半導体業界に対し、中国政府は巨額の資金支援を行う計画だが、「資金支援だけで事態を改善できない」との見方が強い(3月7日付ロイター)。
習近平指導部の経済への統制強化も災いして海外マネーの流出も止まらない(3月14日付日本経済新聞)。
在中国米国商工会議所は3月1日「米国企業の過半数は『中国はもはや主要な投資先ではない』と回答した」ことを明らかにしている。
中国人民銀行は3月15日「米国などの対中封じ込め策に対応する」との異例の声明を出した。
習近平国家主席が全国人民大会で「米国など西側諸国の封じ込めや抑圧に適切に対応する」と発言したことを受けた形だ。
米世論調査会社ギャラップが3月7日に発表した調査結果によれば、「中国に好意的だ」と回答した米国人の割合は15%と過去最低となっている。
習近平国家主席は3月21日からロシアを訪問し蜜月ぶりをアピールしたが、米国を必要以上に刺激しただけで、関係がさらに悪化するのではないかと思えてならない。
構造的な問題?
「中国経済は既に深刻な景気減速に見舞われている」との指摘があるが、短期的な見通し以上に心配なのは、構造的な問題により中国経済の活力が長期にわたって衰えることが確実視されていることだ。
「少子高齢化」が進む中国の経済基盤は劇的に縮小している。
国家統計局によれば、中国の昨年の就業者数は約7億3350万人となり、3年前に比べて4100万人以上減少した。
今後10年間で約2億2800人が退職することが予測されている(3月17日付日本経済新聞)。
中国の「団塊世代(1963~75年生まれ)」が法定退職年齢(男性は60歳、女性管理職は55歳)に達するからだ。
社会保障負担を見てみると、昨年は現役2.28人で高齢者1人を支えていたが、20年後には現役1.25人で高齢者1人という計算となる。
このように、中国経済は救世主どころか、「お荷物」になってしまう可能性が高い。
待ち受けているのは戦後最悪の世界同時不況ではないだろうか。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
デイリー新潮編集部