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利上げの累積効果に世界経済の減速懸念が韓国経済を直撃

2023-04-18 17:58:31 | 日記
利上げの累積効果に世界経済の減速懸念が韓国経済を直撃

2023.04.12

~家計部門には不動産低迷による逆資産効果、物価高と金利高の共存などの悪影響が山積~

西濵 徹

要旨
  • 韓国経済はコロナ禍からの景気回復が進んだが、商品高やウォン安がインフレ昂進を招いたほか、不動産市況のバブル懸念も重なり、中銀は断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされた。
  • 足下のインフレ率は頭打ちするも依然高止まりする一方、不動産市況は調整が続いており、家計部門には逆資産効果に加えて物価高と金利高の共存が足かせとなる状況が続く。世界経済の減速懸念が外需の足かせとなるなか、若年層や働き盛り世代を中心に雇用環境は厳しい状況が続くなど、家計部門を取り巻く状況には不透明感が高まる。
  • 中銀は2月の定例会合で1年半に及んだ利上げ局面の休止を決定したが、国内外で景気の不透明感が高まるなか、11日の定例会合においても2会合連続で金利を据え置いた。ただし、5名の政策委員が利上げ余地を残すべきと判断している上、金融市場で高まる年内の利下げ観測に対してけん制するなど慎重姿勢をみせている。ウォン相場が調整の動きを強めるほか、原油相場の上振れなど不透明要因に対応したとみられるが、不動産市況が下げ止まらないなかで韓国経済を取り巻く状況は一段と厳しい展開も予想される。
韓国経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復が進む一方、商品高に伴う生活必需品を中心とするインフレに加え、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨ウォン安による輸入インフレも重なりインフレ率が大きく上振れする事態に直面した。さらに、コロナ禍対応を目的に中銀は利下げに加え、事実上の量的緩和政策に舵を切るなど異例の金融緩和に動いたものの、景気回復が進むなかで首都ソウルなど大都市部を中心に不動産市況が急騰するなどバブル化する懸念も高まった。こうしたことから、中銀は一昨年8月に2年9ヶ月ぶりの利上げに動くとともに、その後も物価・為替の安定を目的に断続的、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど難しい対応を迫られてきた。なお、昨年末以降は世界経済の減速懸念を受けて商品高の動きに一服感が出ているほか、米ドル高の一服も重なり、インフレ率は昨年7月をピークに頭打ちに転じているものの、依然として中銀目標(2%)を大きく上回る推移が続いており、足下においては物価高と金利高が共存する状況にある。他方、中銀による断続利上げを受けて、上述のように急上昇した不動産市況は昨年半ばを境に頭打ちに転じている上、足下においても下落の動きに歯止めが掛からない展開が続いている。韓国の家計部門を巡っては、債務残高がGDP比で約9割とアジア新興国のなかでも極めて高水準である上、その9割超を住宅ローンが占めるなど不動産市況の影響を受けやすい体質を有しており、足下における不動産市況の調整の動きは逆資産効果に繋がりやすい。こうした状況に加えて、上述のように足下においては物価高と金利高が共存するなど実質購買力に下押し圧力が掛かりやすい状況に直面するなど、家計部門を取り巻く環境は一段と厳しさを増す展開が続いている。他方、韓国経済はアジア新興国のなかでも相対的に外需依存度が高い構造を有しており、財輸出の4分の1強、コロナ禍前においては外国人観光客の4割弱を中国(含、香港・マカオ)が占めることを勘案すれば、中国によるゼロコロナ終了は景気の追い風になることが期待される。こうした状況ではあるものの、足下の輸出額は欧米など主要国の景気減速懸念の高まりが足かせとなる形で勢いを欠く展開が続いている上、期待された中国人観光客も足下においてはコロナ禍前を大きく下回る水準に留まるなど、外需をけん引役にした景気回復にほど遠い状況が続いている。足下の失業率は歴史的な低水準となっているものの、この背景には60代以上の高齢層を中心とする雇用拡大が影響している一方、若年層や働き盛り世代などの雇用環境は厳しい状況にある。上述のように物価高と金利高に加え、不動産市況の低迷による逆資産効果も重なり、家計部門を取り巻く環境は困難さを増す事態に直面している。

このように、足下の韓国経済は内・外需双方に景気の足を引っ張る材料が山積するなか、中銀は2月の定例会合において1年半に及んだ利上げ局面の『一時休止』に舵を切る決定を行っている(注1)。さらに、その後の国際金融市場においては米国での銀行破たんをきっかけに不透明感が強まる動きがみられるほか、そのことが世界経済の足かせになる懸念もくすぶるほか、家計部門を取り巻く状況も一段と厳しさを増していることを受けて、中銀は11日の定例会合において2会合連続で政策金利を3.50%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、先行きの政策運営について「インフレ率は鈍化が見込まれるが、相当期間に亘って目標を上回ると予想される上、金融セクターを巡るリスクが高まるなど不確実性が高まっており、追加利上げの必要性はインフレの鈍化ペースや金融市場の動向、その他の不確実要因を見極めながら判断することが適切」との考えを示している。その上で、世界経済について「想定以上に順調に回復している」としつつ、「国際金融市場における不透明感の高まりを受けて景気の下振れリスクが高まっている」との見方を示しつつ、同国経済について「昨年末以降はやや回復したが、先行きは世界経済の減速や利上げの影響を受ける形で弱含む」として「今年通年の経済成長率は2月時点の見通し(+1.6%)をやや下回る上、不確実性は高い」との見通しを示した。国際金融市場における不透明感の高まりを受けて「ウォン相場は貿易収支の動向や主要国における金融不安、米FRB(連邦準備制度理事会)の政策運営に対する観測を受けて大きく変動している」とした上で、家計債務や住宅価格について「下げ止まりの兆しはみられるが、引き続き低下している」として景気の足かせとなることを警戒する姿勢をみせている。会合後に記者会見に臨んだ同行の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定について「全会一致であった」として2月の前回会合では1名が反対票(25bpの利上げ)を投じた状況は変化する一方、「5人の政策委員がもう一回利上げを実施する機会を維持すべきと考えている」と慎重姿勢をうかがわせている。その上で、ウォン相場について「特定の水準を意識している訳ではない」としつつ、インフレ率は「年後半にかけて鈍化が見込まれるが不確実性が高く、多くの政策委員は金融市場における金利見通しがやや行き過ぎとみている」とした上で、「利下げに動く可能性はインフレが見通しを大幅に下回った場合のみ」と市場期待を諫める姿勢をみせた。さらに、調整が続く不動産市況について「昨年に比べてソフトランディングする期待は高まっている」としつつ、「数人の政策委員は融市場が抱く早期の利下げ観測を警戒すべきと考えている」と述べるなど、足下のウォン相場が早期の利下げ観測を反映して再び頭打ちの動きを強めていることを警戒している様子もうかがえる。実体経済については「ハイテク関連以外は健全である」との見方を示したものの、今月に入って以降も不動産市況に下げ止まりの兆しが出ていない状況を勘案すれば、今後は不動産関連や幅広く製造業関連にも悪影響が伝播する可能性はくすぶると予想される。当面は主要産油国であるOPECプラスの自主減産による原油価格の上振れやウォン安による輸入インフレ懸念など、問題山積の状況が続くであろう。