さよなら黒田総裁、残されたツケの大きさ
【播摩卓士の経済コラム】
2023年04月08日 15時55分TBS NEWS DIG
壮大な実験だったと、つくづく思います。10年にわたって異次元緩和政策を遂行した日銀の黒田総裁が、8日、退任しました。黒田氏が退任したからと言って、直ちに金融政策が全面変更されるわけではありません。
そして、仮に今後、金融政策が修正されたとしても、異次元緩和が残したツケは、何十年にもわたって、この国の政策に影響を及ぼし続けます。
まずは、長期金利固定の修正から
植田新総裁の新体制に変われば、異次元緩和の微修正が行われるでしょう。
最初に想定されるのが、10年の長期金利をゼロ%に固定する政策です。
世界的なインフレ時代の到来で、その維持は困難になっており、国債の無制限買い入れなど弊害も大きいことから、比較的早く撤廃されるのではないかと見られます。
同じく弊害が大きいマイナス金利政策の撤廃、ゼロ金利への復帰も検討対象になるでしょう。
ただ、こちらは文字通り利上げにあたるので、今後の物価動向や政治情勢を見ながら慎重に検討せざるを得ないと思います。
少しでも「無理のない緩和」に近づけるか
こうした微修正まではシナリオが描けますが、その先は難路です。
物価上昇率2%が名実ともに達成できれば良いのですが、日銀を含めた多くのエコノミストは、海外からのコストプッシュ要因が剥げ落ちれば、そう遠くない将来に、インフレ率は再び2%を割り込むと見ています。
そうであれば、2%目標という旗は下ろせませんし、目標を掲げる以上、金融緩和は必要ということになります。
緩和の手段は、金利がゼロである以上、国債など資産を日銀が買い入れるしかありません。
日銀が国債購入をやめることなどできるはずはなく、まして保有残高を減らすことなどできないでしょう。
恐らく、「異次元緩和」を、少しでも「無理の少ない緩和」にするのが精一杯です。
大量の国債発行と金融緩和は「表裏一体」
日銀の国債保有こそが、黒田時代の異次元緩和の最大のツケでしょう。
今や日銀が保有する長期国債残高は576兆円と、黒田総裁就任前の6倍で、発行されている国債の半分以上を日銀が持っているという異常な状況です。
形の上では、市場で流通する国債を日銀が購入しているので、政府も日銀も「財政ファイナンスではない」と言います。
しかし、最終的に日銀が相当量を買うことを前提にしてるからこそ、大量の国債を低い利率で発行できていることは誰の目にも明らかです。
2%の物価目標の達成が毎年先送りされる中で、アベノミクスは途中からは、財政政策に大きくシフトして行きました。
財政拡大圧力は強まり、それを国債の大量発行で賄っています。コロナ禍がそれを一段と加速しました。
政権が変わっても、防衛費倍増に、異次元の少子化対策、GX・脱炭素政策と、財政支出はますます拡大し続けるでしょう。
この10年、国債発行残高が300兆円も増えたのに、利払い費が大して増えなかったのは、ひとえに低金利のおかげです。
政府による財政支出拡大と、日銀による異次元緩和は、表裏一体。双方がビルト・インされた構造になっているのです。
日銀が主要企業の筆頭株主になってしまう異常さ
日銀はETF=上場投資信託という形で、間接的に多くの日本企業の株式も保有しています。
簿価ベースで37兆円という規模です。
投資信託を通じてなので日銀が個別企業に対して議決権を行使できるわけではありませんが、単純計算すれば、日銀が多くの主要企業の筆頭株主になってしまうという異常さです。
一体、この「出口」をどう探っていくのか。
日銀がそれなりの量を売却すれば、暴落につながりかねません。
債券である国債は、満期の償還まで持ち続ければ、いずれなくなりますが、株式はそうは行きません。
市場に影響を与えないとされる、年間3000億円程度のETF売却を進めたとしても、170年かかるという試算もあるほどです。
異次元緩和の評価は、まだこれから
10年に及んだ異次元緩和とアベノミクスのいう壮大な経済政策の時代に、超円高だった為替相場が転換し、投資家や経営者のマインドがリセットされたことは事実です。
雇用が拡大し、「デフレでない状況」になったことも、評価されるべき事象です。
ただ、そこに、これらの政策がどれだけ寄与したのか、また、そのコストが適切なものだったのかは、今後の分析を待たなければなりません。
10年というアベノミクスの時代が終わりました。
しかし、日銀による国債やETFの大量保有といった、そのコスト、いわばツケの影響が現れるのは、まだまだこれからです。
目先の物価上昇率や成長率だけでなく、数十年先まで見なければ、その評価を下すことはできないでしょう。
我々はアベノミクスの功罪と向き合い続けなければならないのです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
2023年04月08日 15時55分TBS NEWS DIG