近年はクワガタムシを羽化させるのに「人工蛹室」を使う方が増えたように感じます。
確かに「人工蛹室」は羽化の様子がわかるだけでなく
羽化不全防止や新成虫の管理にも役立ちますが
メスを「人工蛹室」に移すのはちょっと待ってください!
今回の記事は、メスを「人工蛹室」で羽化させるといったい何が起こるのか?
ということについて簡単にまとめてみました。
クワガタムシのメスは
腹部末端に「菌嚢」と呼ばれる共生酵母の伝達器官を持っており
産卵時に共生酵母を卵殻に付着させて次世代に伝搬します。
孵化した幼虫は、母虫から伝搬された共生酵母の力を借りて育っていきます。
幼虫は、蛹室作成時に糞とともに母虫由来の共生酵母を排出し、蛹室内壁に付着させます。
羽化した新成虫は、羽化後数時間の間に腹部末端から露出した「菌嚢」を蛹室内壁にあてがい
振り子のように左右運動をして内壁に付着した共生酵母を「菌嚢」に再び取り込みます。
この行動によって母虫由来の共生酵母は次世代へと受け継がれます。
そのため「人工蛹室」で羽化したメスは
本来受け継がれるべき母虫由来の共生酵母を蛹室内壁から取り込めなくなるのです。
↓ 下羽をたたんでから取り込みは行われた(ノセオオクワガタ D.nosei)
↓ D.nosei(メス)の共生酵母取り込み行動(2022.4.18)
↑ 腹部末端を大きく左右させて内壁に付着する共生酵母を取り込む様子
共生酵母の取り込み行動は、非常に派手でわかりやすい動きです。
羽化後、ある一定の時間に行なわれる奇妙な行動を是非観察してください。
「自然蛹室」の重要性について考えさせられます。
↓ オスは「菌嚢」を持たない。メスと同様の動きをするらしいが(?)
私は、オークションなどで気になる種を発見した時
「メスは自然蛹室で羽化しましたか?それとも人工蛹室ですか?」
などと質問することもしばしばで
「人工蛹室」で羽化したメスには抵抗があり、避けるようにしています。
↓ 「自然蛹室」で羽化した D.nosei のメス
過去にもクワガタムシの共生酵母に関する同じような内容の記事を書いていますが
羽化を観察・撮影したいとか、雌雄判別したいといった特別な理由がない限り
メスは「自然蛹室」で羽化させるべきと私は考えています。
クワガタムシの菌嚢・共生酵母については検索でたくさんヒットします。
商品としての「人工蛹室」は広く普及していますが
共生酵母の取り込みについてはほとんど認知されていないのが現状です。
クワガタムシのメスへの使用について「注意書き」などあれば
より自然で、健全な母虫誕生につながるのではないかと思います。
以上、「人工蛹室で羽化したメスからのお願い」でした。
参考文献・URL
棚橋薫彦,2018.クワガタムシの菌嚢と共生酵母
「生物の科学 遺伝vol.72 2018 No.4 [特集Ⅰ]クワガタムシ研究最前線」
発行:株式会社エヌ・ティー・エス.
クワガタムシ・コガネムシ類における昆虫ー菌類の共生関係の解明と保全生物額応用
https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-14J09621/14J096212014jisseki/
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます